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トマス・アクィナス (講談社学術文庫)

価格: ¥1,628
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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スコラ学を完成した巨人のすべて ★★★★☆
 本書は、1928年生まれの哲学研究者が、自身の真理探究の導師であるトマス・アクィナス(1225?〜1274)の全てを1冊のコンパクトな書物に盛り込もうとして、1979年に刊行した本を1999年に文庫化したものである。古代の学術を継承・移植し信仰と理性の問題に取り組もうとする、西欧中世の知的な企てはスコラ学と呼ばれ、トマスはその完成者と見なされる。彼は教皇と皇帝のはざまで揺れるイタリアの貴族の家に生まれ、幼くしてモンテ・カシーノに入れられ、後に家族の反対を押し切りドミニコ会に入会した後、紛争中のパリ大学の神学教授、ドミニコ会ローマ管区修道会顧問を歴任しつつ、『神学大全』を始めとする多くの著作を口述で残し、教皇の信頼を得て1323年に列聖された人物である。彼はあくまでも神から出発し神に帰る神中心の世界観を掲げる一方で、人間の自由意志の意義を強調し、哲学に固有の自律性を認めていた。彼は、不完全な人間は身近な事柄から出発し、哲学を通じて完全なる神の理解へと接近していくべきだとし、神学と哲学を結びつけようとした。それは単なる折衷ではなく、緊張を孕んだ独自の総合であったとされるが、彼は絶えず同時代の保守的な神学者たちからの攻撃にさらされ、異端の嫌疑すらかけられた。14世紀のオッカム派による神学と哲学の分離によって、トマス思想は大きな打撃を受けたが、近世以降トマス再評価の動きも見られ、著者自身も世俗主義の帰結としてのニヒリズム、経験主義の自閉化の問題を考えるに当たり、トマスの探究は現代的意義を持ちうるのではないか、と主張している。以上のように、本書はトマスの生涯、著作とその思想、トマス思想の研究史と歴史的意義について体系的に論じた著作である。ただし、多くの引用を通じた著作内容の紹介はなかなか難解であり、現代的意味も私はあまり感じなかった。
構成が不的確ではないか ★★★★☆
 人類の知的遺産シリーズの文庫化。詳細な伝記のあとに,著作からのテーマ別抜粋集がくる。

 知恵,信仰と理性,存在の形而上学,神,真理・認識・言語,善と美,人間論,倫理,法と政治といったテーマについて記述されているのだが,それが抜粋集といった形態をとったために,著者なりのそれぞれのテーマについての総合的な解釈がなされず,したがって,たとえばトマスの人間論についてみても,愛,習慣についての抜粋があるのみで,トマスの人間把握が全体としてどのようなものであったのかがわからない。これは他のテーマについても程度の差はあれ同様である。200ページくらい増やしてでも,主要なテーマについての全体的な記述があってほしかった。この点で,同じ著者が以前,勁草書店からだした『トマス・アクィナス』のほうがわかりやすい。
 

 かわりにといってはなんだが,講談社学術文庫から,是非『神学大全』を英語で要約したTimothy McDermottの‘SUMMA THEOLOGIAE  A CONCISE TRANSLATION’の日本語版をだしてほしい。最良のトマス入門書ではないかと思うので。