トマスをラディカルに読み返す意欲作☆
★★★★★
本書は、哲学・法哲学を専門とし
現在は長崎純心大学教授である著者が、
『神学大全』を独自の視点から解説する著作です。
中世最大の哲学者であるトマス・アクィナスとその主著『神学大全』。
511の問いと、それにに対する回答からなる本書について
著者は、創造論のように神学上の重要な論点に加え
幸福の意義、悪の存在、そして共通善など
現在を生きる我々にとっても重要な論点に注目し、読み解きます。
安易な妥協に落ち着くことなく
徹底して思考し続けるトマスの姿に
時として、著者自身が戸惑いながらも
文理的整合性と、内容上の妥当性を兼ね備えた解釈を展開。
善と悪の不可分な関係、正義と愛の峻別論
などどの記述も興味深く
本書をきっかけにもう一度深く学んでみたいと思いました。
なかでも興味深かったのは
三位一体論と関連付け論じる「神の存在」論です。
我々が前提とする、近代的な人格=ペルソナ論とはまったく異なる理論は、
キチンと理解できているのか怪しいのですが、
「人格」を多面的に理解する手がかりにしたいと思いました。
神学や倫理学はもちろん、
法哲学、政治思想、経済思想など
幅広い領域に根強い影響を与え続けるトマス。
その思想を振り返るとともに
我々の思考のあり方をもう一度根底から問い直す本書。
トマスに興味がある方に限らず、
物事をより深く考えたい方には強くおススメしたい著作です。