本書は「誰が、何時、何をした」ということを素直に論じる本ではありません。東洋史に馴染みの薄い方には些か骨が折れることと思います。他方、中国の歴史に大きな興味を抱き、単なる「物知り」の域に飽き足らない向きには、恰好の手引きになるかも知れません。良い本だと思います。
隋の煬帝の没落から大唐帝国の成立、則天武后の政治、玄宗皇帝による初期の善政と後期の安禄山の大乱からはじまる唐のゆるやかな没落、黄巣の大乱による唐王朝の完全な権威失墜、諸国分裂、そして朱全忠の皇帝即位による完全な滅亡まで、その成立から滅亡までを遺漏なく扱っている。
隋唐の歴史は、隋代や唐の成立期、則天武后、玄宗期、安禄山の乱までは非常に面白いのだが、それ以降はなにか興味が薄れてしまう。唐室自体が権威を失いながら、まだかなり長い間存続するのだが、黄巣の乱以外特筆すべき!事件や人物が出てこない。この本でも前半は引き込まれるが、後半は「両税制」とか「中央と藩鎮」といった経済構造や政治・社会構造の専門的な話になってきて(そこが学問的には重要なのだろうけれども)、退屈する記述が増えてくる。
こういう前半の躍動した物語の連続と、後半の難しい専門議論で構成されている復刻本であるが、律令制についても詳しいし、隋唐時代を知りたい方なら、目を通されても損はしない本ではあると思う。