興味深い考察
★★★★☆
「関ヶ原合戦」というと、ともすると局地戦として捉えられがちですが、
実は天下を二分した全国戦であり、高度な政治戦でありました。
本書では「関ヶ原」を、豊臣政権時代から内包していた政治的問題が極限に顕在化した結果として捉え、
その濫觴から戦後処理までの流れをカバーしています。
本書独自の見方は、関ヶ原をもって徳川氏の覇権が確立したと捉える従来の理解に疑義を唱えている点に、最も特徴があると感じました。
つまり、豊臣系諸将の活躍が大きく戦局を左右したことに着目し、
その結果、関ヶ原戦後肥大した彼らの勢力がなお征夷大将軍たる家康に十分拮抗するものであった事を説いています。
福島正則と池田輝政による先陣争いや、関ヶ原における井伊直政の抜け駆けに特に注目し、
戦場におけるイニシアティブを握ることが戦後、ひいては日本史上に残した影響に言及しています。
このあたり、深い洞察が感じられ非常に興味深く読むことができました。
ただ、家康は本来豊臣家に好意的であり、これを積極的に滅ぼす意志はなく、
最晩年の行動は「心変わり」であり、その理由を「謎としておきたい」と結ぶ点には賛否両論があるかとは思いますが。
とはいえ戦国時代の結実として、全国規模の視点で関ヶ原を捉える本書の視点は的確であり、
この史上空前の戦いを理解する上で大きな助けになるかと思います。