「No orchestral instruments or synthesizers」
★★★★★
86年発表の3rd。忘れた頃にやってくる天災のような・・・前作から8年ぶりの作品であり、本作はかなり熱狂的に歓迎された。ヴォーカルでブラッド・デルブが参加した以外、ほとんどトム・シュルツが一人で作り上げた作品であり、相変わらず凄まじいクオリティを持ったハード・ロックを聞かせている。サウンドへのこだわり、音楽に対する愛情や情熱は一曲目を聴けばすぐに分かる。おそらくミキシングを何度も何度も繰り替えしたためであろうが、マスターの音が微妙に擦り切れている。もちろんその音ですら聴いていてかなり気持ちが良く、決して評価を下げることには繋がらず、むしろそういった情熱が、聴くものを凄まじい感動に導く。ボストンの音楽は天才アーティストが「チャッチャと素晴しいものを作りました!!」的なアートなものではなく、天才ではありながら、不器用な試行錯誤をくり返して生まれたものであり、そこが強い魅力を放っているのだと思う。わざわざジャケットにオーケストラ楽器もシンセサイザーも使っていないと宣言し、各曲の製作時期までクレジットに入れるというこだわりも本作を聴けば納得。まるで子供の成長記録でもするかのような楽曲に対する愛情の現れなのだろう。本作はやや内省的なパワー・バラードとも言うべき「アマンダ」や「ホリーアン」が特に聞き物。文句の付けようが無い傑出した作品だと思う。
ボストンの代表曲は?
★★★★★
ボストンの代表曲は何? と訊かれたら、それは多分「アマンダ」ということになるのだろう。知名度的には 1st.アルバムの「宇宙の彼方へ (More Than A Feeling)」や、2nd.アルバムの「Don't Look Back」の方が上かも知れない。しかし、「あまりに完璧すぎて、次の曲が作れなくなってしまった」と言われた、その曲こそ 3rd.アルバムのトップを飾る「Amanda」なのだ。快活さより、叙情性重視の曲で、いつもより少し大人しいが、間違いなくアメリカン・ロック・バラードの名曲だ。
1979年だったと思うが、来日公演でも既に披露され、新たな名曲と期待されたが、結局、発売まで8年間ものブランクが空くことになった。しかし、この曲は、長期間、表舞台から去っていたにもかかわらず、年間チャートでも上位に食い込む健闘を見せた。
アルバムとしては前2作ほど評価されていない本作。「We're Ready」だって、「Cool The Engines」だってなかなか良い曲なのだが、「Amanda」が凄すぎて、霞んでしまう。また、曲数を稼ぐための、小品やメドレーが多いのも、「物足りない」と感じてしまう要因になっているかも知れない。しかし、トム・ショルツが完全主義者にならざるを得なかった、この曲は是非とも多くの人に聴いてみて欲しいと思う。
「飛来した宇宙船も、実は母船の一部に過ぎなかったのだ!」という物語性を持たせたジャケットも、夢があっていいナと思ったのだった。