導入部、導入部?!
★★★☆☆
本書の帯には、日本篇の第一作と記されている。しかし、印象としては、第一章というほうが適当なように見える。
語り手は、作者を想わせる小説家宗像。関東地方の鈷室山に出自を持ち、深い繋がりを持つ鷹見澤と北澤の二家。鷹見澤家は、古来一族の祀る鈷室神社の代々の神主を務め、北澤家は、現在日本有数の財閥を支配している。そこに一族の、かつての前衛画家にして現役の警察キャリア官僚、警察署長の蜜野、大学の教員となるナディア・モガール、画家にして北澤家の娘雨香と息子響が絡む。小説家宗像の作家となった経緯も語られる。雨香の双子の風視の周囲から立ち昇ってくる矢吹駆の影。その他登場人物には事欠かず、その人間像は未だ語られざる側面が多い。
昭和が終わる、天皇が死ぬ、ということも、これだけ? の感がある。「鈷室」という名辞も、天啓教も、まさかこれだけが出番だということはないと思うが。ありとあらゆることに、これはどうなるの? という思いが湧く。
事件がらみの部分では、時刻表トリックと同じで、とてもいちいちの事実を追う気にはならなかった。前提の設定で、推論はいくらでも成り立つということは自明であるし、前提の繰り込みの制限がなければ確定的な結果が得られないということも当然のことと思う。この小説中の推論の部分の量は、類書中最大に近いに違いない。『虚無への供物』を思い出した。とはいえ、推理を楽しめなかったわけではない。論理代数のような部分ではない、いくつかの発想の点では、面白かった。
シリーズものとして考えると、主人公が登場しない点に関して、? と感じるが、総てが導入部と考えると、日本篇の大きさに大いに期待して、まあ、いいか、と思ってしまった。
カケルはどこ?
★★★★☆
久しぶりに笠井潔の矢吹駆シリーズの新作が出た。
最初に読んだのは多分高校生ぐらいだったはずだから、20年以上前。これほど新作が待ち遠しかったものもない。
以前の作品はパリ、フランスを舞台にしていたが、一転、日本に設定された。しかも人称もナディア・モガールから、作者の分身であろう作家に変更。ということで 大分雰囲気が変わった。
内容も以前と異なり、なんだか本格推理小説という感じで、前作までカケルがやっていた探偵役をナディアがやるようになったのも変わった。
はじめは違和感があったが、だんだんそれにも慣れ、700ページを超える超大作もあっという間に読み終えた。
でもカケルはどこに?
アンチミステリの新たな金字塔となるか
★★★★☆
すべてのヒントが出てくるまで本格的な推理はしない。
探偵小説における「名探偵」とは、本来そういうものであります。
では、「これですべてのヒントが出揃った!」と、そう判断するのはいったい誰か。
言うまでもなく、名探偵本人なのであります。
しかし、この小説には、名探偵・矢吹駆は登場しません。
すべてのヒントが出尽くしたのかどうか、誰にもわからないのであります。
だから、推理マニアの登場人物たちは、不毛な推理を延々と楽しんでしまうのでした。
情報の中途半端さに甘んじて。あの、「虚無への供物」を思いださせるかのように。
そこに、かつて「フランス篇」のワトソン役を務めた、ナディア・モガールが登場します。
フランス時代、彼女もまた無責任な推理マニアでした。だけど今じゃすっかり大人。
はたして、矢吹駆に代わって名探偵役を果たすことができるのか・・・?
(不毛な推理に付き合う覚悟だけは決めておいてくださいね。)
たしかに厳しいです
★★★☆☆
皆さんがご指摘のとおり、期待して買って読むとかなり厳しかったです。全体構成の見直し、文章をもっと刈り込むなど、かったるい印象を防ぐ手立てがあったはずです。
失望
★☆☆☆☆
退屈極まりない小説でした。
作者が自分自身の為に書いた自慰的小説という感じです、著者の笠井氏に失望しました。
哲学者の密室を星五つとするなら、この作品は星一つにも値しないと思います。矢吹駆シリーズ中、最低の作品であることは間違いないでしょう。