「大全」の書名に相応しい内容と網羅性
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本書は西日本に残る634の近代建築を都道府県別に分類し、所在地、設計者、公開、交通等の基本情報と建物に関する解説を掲載したものです。オールカラーですし、内部の写真も多く掲載してありますので、愛好家にとって嬉しい出版であったのは確かです。この網羅性は高く評価したいと思います。
本書掲載の近代建築はモダンでステキなものが多く、日本の発展と共に歩んできた風格が外観に滲み出ていました。往時の繁栄振りを彷彿させるような近代建築が好きで各地を訪れては目の当たりにするのを楽しみにしています。風格があり威厳もありますし、質感の温かみが建物全体から受ける優しさを伴っています。風雪に耐え、震災や戦禍もくぐり抜けた歳月がその姿に表れていました。
文化財として指定をされているものもありますが、近代建築は数が多いこともあり都市開発の前に消えていったものも多くありました。惜しいことです。残すべき文化遺産がここにあります。
8ページに掲載の綿業会館はモダンビルの最高峰という評価を得ており、近代大阪の発展に寄与した紡績業のシンボル、船場の象徴として今も建築史の観点から貴重なビルの一つに上げられています。機能美と同時に物づくりの矜持が感じられる内部の豪華さは、大大阪の繁栄振りをうかがわせるもので、渡辺節の設計が80年の時を越えて今も輝いています。内部のしつらえの素晴らしさを通して、大大阪時代を知る契機になるでしょう。6ページという分量で紹介していますがそれだけ値打のある建物です。
大阪市中央公会堂、大阪府立中之島図書館、日本銀行大阪支店泉布観など、中之島界隈の建築物は見事なもので、内部の写真も掲載してありますが、その建物を訪れることで価値を知ることになるでしょう。
明治時代以降の近代建築に興味を持ち始めた人にまず、お勧めしたい本
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現存する明治時代以降の近代建築物がカラー写真(一部は室内写真も収録)とともに解説され、最寄り駅からの案内図も含まれ、「建物巡りに行ってみよう」という気もちにさせてくれます。
紹介される建物の中にはどのような改修を経て現在の姿になっているかなど理解した方がよいものもありますが、そのような解説が行われているものは多くはないため、本書を入手して建物を見始めた人は建物に訪れた時にその歴史についても調べると建物巡りがより深いものとなります。
500を超える数の建物が紹介されていますので、建物巡りの旅行計画が立てやすくなるように、東日本の地図を入れてどの場所にどの建物があるかを一目でわかるように配慮してくれたら、また、巻末の有形文化財の建築物のリストに写真も入れてくれたらと、つい欲がでてしまいます。