うーん、このMALTAはいいですよ。…というと、ほかが悪いように聞こえるかもしれないが、そういうことではなく、聴いた瞬間にいいなと思える作品だということ。もっとも、MALTAをフュージョン専門のサックス奏者だと思っている人は、少々面食らうかもしれない。本作のMALTAはジャズに専念しており、これが自分のルーツだといわんばかりに徹頭徹尾、ジャズに固執する。そこがとてもいい。バラード中心のスタンダード集とあって、メロディをじっくりと歌いあげる。サックスがすすり泣き、むせび泣いている。真ん中にボサノヴァやブルースを挟んで、最初と最後はきっちりスロー・バラードで泣かせてくれる。
ここにはジョニー・ホッジスやベン・ウエブスターが確立した匂うようなジャズ・サックスの世界が充満している。ワン・ホーン編成で、バックはシダー・ウォルトン、ピーター・ワシントン、ジミー・コブという筋金入りのトリオ。デビュー20周年特別企画盤の名に恥じない会心作だ。(市川正二)