持続可能性のある社会であるために
★★★★★
なぜ、今こそ、「(世代間)連帯」が必要なのか。
それは、それなくしては、社会が持続していくことができなくなるから、
今それをしないと手遅れになるから。
自分は、男女共同参画や子育て支援関係の行政に関わる立場から、あれこれ学び、
考える中で、つきつめるところ目指すところは…「社会が持続可能であること」であり、
そこを目指す上で、世代間の格差とそこから闘争状態が生じてきていることが最大の
阻害要因だと感じるようになってきた。
が、「感じる」けども、うまく「説明」ができない。
この本は、そこをとても分かりやすく説明してくれていて有難い。
医療、福祉・介護、貧困、労働…などの社会課題もすべて関連してくるのは当たり前で、
本書ではそのあたりも…というか、そのあたりをメインに取り上げている。
自分は、辻元清美という政治家の言動が感覚的に好きでないし、本書の中でも
政治的というか政争的な発言をしている部分には首を傾げる点が多かったが、
上野千鶴子にストレートに意見をぶつけ、上野の社会学者・社会政策立案者としての優秀さを
わかりやすく引き出したことに感謝。
上野も「おひとりさまの老後」では独善的・利己的な書きぶりが目立つと(自分には)感じたが、
社会システムを総合的に見れる学者としての優秀さはさすが。
完全に余談になるが、ジェンダー平等が日本である程度まで実現していたら、
上野のような優秀な頭脳は別の事に活躍してもらえるのだろう。その点だけでも、
ジェンダー平等でない状態はもったいないのかも。。。
EU等先駆者に学び、日本型ぼちぼちライフを志向せよ。
★★★★☆
本書の論点で彼女たちに基本的合意はあり、その上でデータをもってえぐり出し、解決策を探っているかと思いきや、各論では認識も意見の相違も見られ、本人同士も新鮮な発見だったらしいが、両者の発言を既知しているであろう読者も同様の思いであろう。
労働は、同一価値労働同一賃金のデンマーク、オランダ。
子育ては、保育ママ制度のフランス、若年母親学校と低所得者への保育料補助のニュージーランドと、90年代の不況や少子化を見据えて、各国は先手を打ち、成功例として喧伝されている。
対談には、それを紹介するのみならず、反省点も踏まえた発展型として提言や、子を親の生産財とし、女を家内不払い労働者と位置づける若者にも残っている意識の打開策も期待したが、そこまで至っているとは言い切れず、少し残念。
また少子化と、経済大国から小国への必ず来る転換期を前にして、どうソフトランディングさせるかは、政治家だけでなく、全ての国民の問題であり、いつまでも世代間で怨恨をぶつけ妬むのではなく、強者が行っているように連帯しなければならないのも自明なのだが、音頭取りの市民運動でも些細な考えの違いを認めあえず分裂を続けている事は二人とも承知だろうに、それをどう越えるかにも言及されていない。
本書で、「社会保障は全ての人へのリスクの共同管理=世代間連帯であり、社会の最終的な安心への投資。
将来に対する不安を解消することは、消費を活発化させ経済発展にもつながる。」との、社会保障全般についての真理的回答は得たものの、もっと話題を絞って更に読みたいものだ。
また、紹介されている網野善彦氏の百姓(ひゃくせいと読む多角経営の自営業者の事)ライフや、富山の共生型介護施設このゆびとーまれについても、『笑顔の大家族このゆびとーまれ』等の関連書を探ろうと思う(網野氏の言葉は、上野氏著『サヨナラ、学校化社会』での引用しか見あたらないのだが)。
今の日本の家族が抱える問題を読み解く
★★★★☆
上野と辻元、社会学者と政治家(まだ半人前だが〜笑)が
日本の家族のしくみと現状を多く語っていた。多少ローカ
ルな団体の話しが、鼻についたが、結構考えさせられたし、
話しの中身にこれからのヒントがたくさん散りばめられて
いた。未婚者が増えることが結果として世帯を増やすこと
になるなど、もはや標準装備ではない夫婦制度にのっかる
制度の総点検の必要性を感じた。
サブプライムの失敗は、米国だけの問題ではない、持ち
家政策を相変わらず推し進める政治は、このままでは米国
の二の舞となる。所有から使用という考え方が必要なのだ
ろう。また、家電などという言葉がなりたたない時代、上
野風に言えば、今や個電という言葉の方が正確である。
子どもの貧困が政策によって増幅されてしまったことが
この本でも取り上げられている。今、子ども手当がいろい
ろ議論になっているが、上野が言うように、民法で働くこ
とを禁止している子どもに経済的保障は当然のことである。
しかし、男女の平均寿命がこんなにちがうのに、受給年
齢が同じでいいのか。男60、女68歳から年金支給にし
てもいいのでは、とこの本を読みながら、女どもに浸食さ
れる現代社会に男の反乱を提起したくい。
ちょっと悔しいから星ひとつ落とした。
弱者切り捨ての草の根ファシズム
★★★☆☆
軽く読めるし良い本だとは思う。
この本で上野と辻元がはっきりと累進課税の強化を言っているのは同感。マスコミも政治家も消費増税のことは声高に唱えるが、なぜか累進課税のことは議論すらしない。税調の答申でも取り上げられたのに、まったく黙殺されたままだ。実際の現場が垣間見える介護の話同様、その点は面白かった。
ただ時々出てくる辻元の屁理屈には閉口する。例えば文中2回ほど、辻元の『現在の状況は、内需を拡大せずに輸出に頼った大企業が悪い』と趣旨の発言が出てくる。
一体 企業がどうやったら内需を作れるのかボクにはさっぱりわからない(笑)。企業は需要が見込まれるほうへ経営の舵を向けるのであって、需要を作るために経営を行うのではない。そもそも人口が減ってるんだから、普通に行けば内需は減っていくのは当然だ。辻元の言に従うと消費者は企業のマーケティングに踊らされるだけの愚かな存在だろう。この人、人間という存在を馬鹿にしているのではないか?為政者とは別に、民間のいわゆる草の根の人間が、このような屁理屈を煽って仮想敵を作って人を動かしていく、こういうのを草の根ファシズムというのではないだろうか。
それに比べると上野は遥かにマトモだ。派遣社員の規制強化を唱える辻本に『それでは企業の海外移転を助長するだけ(雇用も内需を減らすだけ)』とたしなめる大人の常識は健在。上野との対談でなければ、まともな本として成り立たなかったと思う。
でも二人とも、結論を簡単に『連帯』とか美しいキャッチフレーズで言い切っちゃうのはどうなんだろうか。他人と連帯できない人間が世の中ではおそらくもっとも弱者なのだ。例えば現実に派遣社員の人でも(それだけではないが)他人との連帯が苦手な人も多いのではないだろうか。もしかしたら、それは自己責任と切捨てるのだろうか(笑)?
この本では、上野も辻元も連帯と簡単に言い切ってしまうことで、本当の弱者を切り捨ててしまっている、残念ながら。
新しい問題は新しい方法で解決する
★★★★★
上野千鶴子と辻元清美の一年をかけた対話を本にしたもの。話題は多岐にわたるが、二人が詳しい介護・ケア・少子化などの分析に光るものが多い。家族の変容、晩婚・少子化、高齢化、教育、医療、年金など、現代日本に生じている諸問題は、「問題の解決それ自体が新しい問題を生み出す」というタイプのものである。それらはすべて連動しているから、「昔はこんな問題は起きなかった! 昔に戻せ!」と叫んでも無駄なのだ。たとえば、性が結婚から自由になった「性革命」(世界中の先進国で一様に生じた)の日本固有の帰結は、非婚化と少子化だ。結婚しなくても性活動が可能になり妊娠も増えたが、「できちゃった婚」にならずに中絶も多い。ヨーロッパのように事実婚が普通になれば、出産はかなり増えるはずだが、「未婚の母」に不寛容な日本の文化や法制度が中絶と少子化を促進した。文化、規範、法制度は複雑に絡んでいる(p68f)。また、商店街のシャッター通りと同様なことは、これから住宅地でも起きる。住み手のいない空き家を公共財化して、地域の介護拠点や低所得者に提供するというアイデアは悪くない(45)。超高齢化というピンチは、新しい発想をすればチャンスでもある。上野は言う、「草の根からオルタナティブな共同性を創ることだ。オルタナティブな共同性は、かつてあった共同性を回復したり復活したりすることじゃない。・・・かつてあった共同性が解体され、機能マヒしていったのは、必然性があったからそうなので、それを復活させることはできない」(225)。全体的に、上野は経済合理性を重視、辻元はややユートピア的か。