シリーズの転機となる巻
★★★★☆
主人公の臨時廻り同心・長尾勘兵衛は両親の顔を知らない。
養父母の話では、亀戸天神の鳥居の根元に捨てられていたという。
宮司に拾われたのち、風烈見廻り同心の養子となった。
心優しい同心夫婦は勘兵衛を一人前の男に育て、住む家と働く場所を残してくれた。
勘兵衛は飄々としているように見えるけれど、いざとなればしゃんとする。
知らんぷりを決め込みながら、困った者には救いの手を差しのべてやる。
たとえ、それが咎人であっても、情にほだされれば救ってやる。
そんなお人なのだ。
・・・というのは、作中で毎回説明される主人公紹介の一節と、
作中のオアシス的存在である居酒屋の女将・おふうが語る勘兵衛の人となりである。
シリーズ5巻目の表題作「藪雨」では、勘兵衛とおふうとの関係に決定的なアクシデントが起こる。
殺伐とした事件が描かれる中で、一服の清涼剤だったおふうの存在が失われることになり、シリーズの転機ともいえる作品だろう。
今作に収められている3編は、いずれも女性が各章の主人公となっている。
旅一座の役者・おりんの「鹿角おとし」、怪力の大女・おでんの「足力おでん」、そしておふうの「藪雨」である。
女の生き方の難しさがヒシヒシと伝わる3編だ。