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藪雨―うぽっぽ同心十手綴り (徳間文庫)

価格: ¥660
カテゴリ: 文庫
ブランド: 徳間書店
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人情時代小説シリーズ第5弾 ★★★★☆
 うぽっぽ同心十手綴りシリーズの5冊目。江戸の芝居事情に取材した「鹿角落とし」、天を衝くような薄倖の大女を捉えた「足力おでん」、そして連続女殺しを追う「藪雨」の中篇3篇が収録されている。江戸時代の風物を良く取材して書き込んでいる印象を受ける。登場す人物の一人ひとりが息づいている。うぽっぽ同心長尾勘兵衛が示す情の深さも、自然で人情味にあふれている。
 4冊目あたりから描写に深みが増し、読み応えのある時代小説へと成長した。事件の悪党も紙数は少なくとも掘り下げて描かれている。人情時代小説としてその地位を確たるものとする1冊かも知れない。時代小説ファンにはお勧めの1冊である。
シリーズの転機となる巻 ★★★★☆
主人公の臨時廻り同心・長尾勘兵衛は両親の顔を知らない。
養父母の話では、亀戸天神の鳥居の根元に捨てられていたという。
宮司に拾われたのち、風烈見廻り同心の養子となった。
心優しい同心夫婦は勘兵衛を一人前の男に育て、住む家と働く場所を残してくれた。

勘兵衛は飄々としているように見えるけれど、いざとなればしゃんとする。
知らんぷりを決め込みながら、困った者には救いの手を差しのべてやる。
たとえ、それが咎人であっても、情にほだされれば救ってやる。
そんなお人なのだ。

・・・というのは、作中で毎回説明される主人公紹介の一節と、
作中のオアシス的存在である居酒屋の女将・おふうが語る勘兵衛の人となりである。

シリーズ5巻目の表題作「藪雨」では、勘兵衛とおふうとの関係に決定的なアクシデントが起こる。
殺伐とした事件が描かれる中で、一服の清涼剤だったおふうの存在が失われることになり、シリーズの転機ともいえる作品だろう。

今作に収められている3編は、いずれも女性が各章の主人公となっている。
旅一座の役者・おりんの「鹿角おとし」、怪力の大女・おでんの「足力おでん」、そしておふうの「藪雨」である。
女の生き方の難しさがヒシヒシと伝わる3編だ。