痛快事件帳シリーズ第3弾
★★★★☆
前の2冊とは異なり、食べ物の描写や風景の描写が増えたこと、印象的になったことが挙げられる。本格的な時代小説とは異なるが、雰囲気は良くなった。
事件の結末も相変わらずハッキリと明快に解決して見せるが、最後の「月のみさき」だけは、思わせぶりな締め方で、ついつい4冊目以降も手にしてしまいそうだ。著者の計算なのかも知れない。
全体としては益々快調な筆の運びというところだが、260年以上の及ぶ江戸時代のいつ頃に時代を設定しているのか皆目分からない点に不満がある。貨幣の単位も両と朱しか出て来ない。三十俵二人扶持の同心にしては金回りが良いようだが、その点には全く触れられていない。ディテールを省いている点が気になる。
結論としては本格的時代小説とはいえないが、事件の背景の描き方の妙、概ねスッキリとした結末などを楽しめる探偵小説だと思う。読み物、物語として楽しむには良い。
シリーズ珠玉の3編
★★★★★
うぽっぽとあだ名されながら、正義と人情を貫く同心・長尾勘兵衛シリーズの3作目。
本作では中編3本が収録されているのだが、いずれも事の真相が二重三重に隠されているという点で、推理小説のような展開の意外さがある。
本来は捕り物話でありながら、章によっては町方の手が及ばない巨悪には別の手段で天誅を下す、という手法を用いているので、
場合によっては“仕事人”的な解決の仕方をすることもあるのだが、本作に収められている「女殺し坂」と「濡れぼとけ」はまさにそれ。
中でも「女殺し坂」は初本から登場する某上司を始末するという点において、シリーズを代表する大仕事といえるのではないか。
また「月のみさき」では、やはり初本から重要なディテールの一つとなっている主人公・勘兵衛の行方不明の妻が登場する。
力作揃いといっていい3編で、全体に物語としても読み応えがある。