至福の演奏会
★★★★★
一曲目の冒頭から、切々と訴えかけてくる静けさと情熱に満ちた演奏に、”ああ、買ってよかった。”と、思えるCD.8曲の構成がライブの為か、選曲のバランスがよく、録音の具合も臨場感があり、2曲目、6曲目のあとに入る拍手も自然な感じで良い。
ショパンと言えば、ポリーニのキラメク星屑のような、軽やかで透明な音が好きだったが、キーシンのショパンは、狂おしく、悩ましい。
2曲目の変ホ短調のポロネーズの始めから40秒ぐらいの所で、ピアノの音がむせび泣き、いつもディスクの方を振り返ってしまう。即興曲の1番も美しくその軽やかさにうっとりし、即興曲3番では、悩ましい旋律に酔い、翻弄されてしまう。
有名な4番こそ、私の聞きたかった”幻想即興曲”で、思わず身じろぎせずに聞いてしまった。譜面の意味をすごい説得力で聴かせてくれる。今までは、ヒステリックな、さかさ落としのようなスケールにうんざりする事の方が多かったから、、、、、
こんなに弾けるのに、演奏に高ぶったところがなく、詩情のみを残すキーシンには、畏敬の念を感じる。そしていつも全曲聴き終わったあと”もっと、弾いて”と言いたくなるのがキーシンのCDだ。
深い精神性と明瞭なテクニック
★★★★★
ライヴ録音。
速めのテンポで、情熱的で、エネルギーを全部放出するかの様な演奏だ。
キーシンのテクニックは、音の粒が明瞭に聞こえ、一音一音に特別な輝きを持っている。
また、若い頃から注目を集めて来たが、若いうちから、曲に深い精神性を有する。
普通は、老練してから深い精神性を会得するのに、若いうちから、という点が不思議でもあり、天才たる所以だろう。
そのキーシンの選曲を検証すると、ショパン即興曲全曲とポロネーズの抜粋だが、少し意外に感じた部分がある。
即興曲は、第4番「幻想」ばかりがクローズアップされやすいが、全4曲とも、十分に魅力がある。
第1番と第4番は、動きの激しい曲だが、流石にキーシンは、冴えたテクニックで、明瞭に弾ききる。
第1番は、相当速く弾いているため、曲が疾風の如く通り過ぎるが、こんな弾き方は常人には絶対に真似出来ない。
音を言葉で表現するのは難しいが、キーシンは、これらを、深い精神性とともに、「明瞭に」弾いていて、聴き応えがある。
第2番と第3番は、歌う曲だが、キーシンの歌は、高度に抑制が効いていて、そこに、真に迫るものがある。
意外に感じたのは、ポロネーズの選曲だ。
ポロネーズの深みや精神性の高さで順番を付けると、まず第5番、次に「幻想」「英雄」だろう。
何故第5番を弾かないのかと思いきや、第5番は、別のリサイタル盤の方に収録されているため、割愛されているのだろう。
それでも、「幻想」を弾いて欲しかったが、「英雄」が収録されているので、こちらを重視する事にする。
「英雄」は華やかな曲だが、キーシンの演奏は、華やかな曲は徹底的に華やかとなっている。
この華やかさこそが、一つの深みでもあるが、中間部での抑制の効かせ方、緊張感も素晴らしい。
他にポロネーズ第1番、第2番、第4番も収録されており、これらの演奏にも、はっとさせられる。
総じて、キーシンのCDの中でも、特に聴き応えのある一枚だ。
神がかり
★★★★★
最も印象に残ったのは英雄ポロネーズ。
全ての音が洗練されており汚い音が一切無い。
さらにどのピアニストにもない独特な緊迫感を醸し出しており、其れも非常に心地よい。
特に中盤の左の連打のテクニックは圧巻。
完成された音楽⇒少々女性的な音楽 という解釈が一般的であるように感じるが
キーシンの完成された音楽には寧ろこれ以上ないほどの威厳を感じてしまう。