「うわ、失敗した」から、「かなりいけてない?これ」
★★★★☆
へえ・・・といういわば始まりのような部分で終わるのがかなり新鮮。
文体も普段の谷崎作品とは違う。
結構瑣末な内容も多々含めてひとつのワールドを作るのが谷崎作品だと思っていましたが、これは違う。
瑣末内容ほぼゼロ、一人称、しかも好きな開いてとやっと始まったところで別れて終わる。
まあ完全な別れではなくて遠恋の始まりで終わり。
一人称でしっかり主人公の受けが己の気持ちを理解したところでちょんぎれるので、攻め側の印象が薄い。
年上のいい奴だ、ぐらいしか読んだ後も残らない。どんな顔してたのかもさっぱり(笑)
それでも読んだ後の感想がプラスなのは、この受けがバーで出会ったまじめな攻めを「本当に好きだ」と感じるまでの心情が細かく描写されているから。
その分アップダウンがなくてつまらないって思えばそれまでですが、そう思う前に一度は読んでもいいんじゃないかと、おススメします。
ただね〜、受けの朝陽がが前の彼氏に無理やり犯されたのを見て、動揺せずにしょうがないと許してくれる攻めの重森のリアクションには、大人だなあ、そういうこと全てひっくるめて朝陽が好きなんだなあと感心する一方で、普通自分の相手がそうなったらちょっとは悩んだり葛藤するんじゃないか?と、あまり人間くさくない重森に疑問を抱かなくもなかった。
ある意味、不思議さんでした、重森。
ともまくも、最初付き合うまでが三分クッキングのように早いのでちょっとえ?と思いますが、それを過ぎると印象がガラッと変わる一冊です。
おためしあれ。
不覚・・・涙が零れた
★★★★☆
やっぱ谷崎さんの作品はチェック外せないです〜。ここ最近特にいい!『真音』『好きになるということ』両シリーズもずっぽり嵌まってます。
さて、今回の作品ですが、久々に泣きました。泣かせ所は何か所かあるんですが、終盤朝陽(あさひ)のために、見た目はちっちゃくてかわいいのに酒豪で大食漢、でもおっとこ前の親友美鞠(みまり)ちゃんが大泣きするシーンにはやられました。どうしても涙を止められなかった・・・
お話は、新米美容師の朝陽が、DVを繰り返す身勝手な元彼に若干の想いを残しながらも、やさしくて朝陽を好きだと言ってくれるエリートサラリーマン重森に戸惑いつつ惹かれ、恋をしていくというものです。
なにくれと朝陽をかわいがる?先輩美容師猪俣と親友で同僚の美鞠(女の子だよ)に支えられ、励まされ、新しい恋に踏み出す朝陽ですが・・・
話の流れに合った、本当に自然なエンディング、と言うかプロローグ?できれば数年後の朝陽と重森を是非とも読みたかったです〜。
なので星4つと言う事で。
作中に「気にしい」という言葉が出てくるのですが、(他人を気にしすぎ、気を遣いすぎる)朝陽と重森は二人とも「気にしい」で、それは相手を想っているからこそのことで、それでも、縋ってしまう甘さだとか、抑えきれない気持ちだとか、目を背けてしまう弱さとかにじれったくなるかもしれませんが、本人がきちんと解っていて、猪俣・美鞠コンビがフォローもしてくれます。友情と親愛と恋愛に切なさがあっちこっち散りばめられたとっても『やさしさ』が残る一冊でした。