このマンガが傑作で、作者の三宅さんをすごいと思った理由。
★★★★★
読み始めてすぐにあるカラーページでそれとわかるように、この『ペット』は、小学館から出て完結した同作品のリマスター・エディションです。
前のバージョンでも『ペット』が傑作であることには、変わりないのだけれど、描き切れていないことを感じる終わり方で、残念だったことをおもいだします。
”ベイビー”の行く末とかね。
この作品の紹介をすると、
”人の心のハッキングを生業(なりわい)とする能力者たちとその能力を裏の仕事につかい、汚い金を稼ぐ会社。……能力者たちが自分に目覚めたとき、自由を求める闘いがはじまった。……かつてないサイキックホラー云々”
となるのですが、このあらすじは間違ってはいない。間違っているとは思わないけど、おもしろさを十分の一もつたえられていない自信はある。
『ペット』のすごさは、あらすじを書きにくさとカテゴライズのしずらさにも表れている。
この傑作を連載で読んでいるときに、すごい! と感じたのは、たとえば”桂木”という人物の造形です。
他者との共感が鍵であるこのストーリーの中で、”桂木”を、人の心を雑に扱うイヤな上司の典型として、途中まで読んでいました。
そして、人物の造形が甘いなと感じていました。
それは、仮にも”潰し屋”といわれ、人の心をあやつる能力者の桂木は、他者への共感がすぐれていなくては、ならないからです。すくなくとも、雑では成り立たないのです。
でも、ぜんぜん違った。甘いのは、僕でした。
物語の終盤(このリマスターエディションでは、まだ発売されていない部分)、桂木の”記憶”が、あきらかになるのですが、十分な説得力にガツンとやられました。
それまで、脇役だからキチンと描かれていないと感じていた桂木が立体的になり、この物語の陰の主人公だったことがわかりました。
桂木でさえ一例です。他の人物、人間関係もリアル。物語の構成も深く濃い。
多分、この作家のすごさは、現実の社会とか人間関係をガバッと捕まえ、それを表現できることです。
このガバッが、たとえチョロでも、それを表現できたら一流です……
ああ、ガバッとかチョロとか、もうなんの紹介にもなっていませんね。
『ぶっせん』→『ペット』→『イムリ』
三宅乱丈さんのまんが力は、飛び抜けている。
傑作。おすすめ。