押し付けがましくない語り口
★★★★★
“殺し屋ケラー”の短編集。読後の爽やかな一冊である。殺し屋の話を読んで、読後感が爽やかだなんて、問題はあるような気もするが…。
ケラーのプロフィールはさほど多くは語られない。察するところ、年齢は恐らく40代前半から半ば。仕事はコンスタントに廻されてくるので、都市近郊地にちょっとした一軒家を購入するぐらいの金には困らない。仕事で地方へ行く度に、その土地に家を購入して落ち着く夢を見てしまう。だが、本人は根っからのニューヨーカー。所詮、他の土地で暮らせる筈もない。
仕事はある日突然舞い込み、受けるとすぐに飛行機で遠隔地へ。2~3日で片付く時もあれば、2~3週間を要する場合もある。仕事が終わるとすぐに引き上げ、また何もない日常に戻る。
この短編集の中で、ケラーは仕事をした相手の飼っていた犬を引き取り、思いがけずその犬に夢中になる。仕事で留守をする間のドッグシッターの女性と恋に落ちるが、暫くすると、その女性は犬も一緒に連れて出て行ってしまう。
犬を失って後、ケラーは引退を決意するが、突如趣味となった切手蒐集に、思いのほか費用がかかることを発見して、引退を先延ばしにする。最近ボケて来てしまった元締めの男と、その男を支える妻(恐らく内縁)との親密で不思議な関係なども曖昧に語られ、興味をそそられる。
「殺しのリスト」という長編も購入済みなので、こちらも読むのが楽しみになってきた。