畠山美由紀の唇が近づくアルバム。
★★★★★
静かに静かに、素朴な調べを奏でるジェシー・ハリスのギター。その上に乗るのはチェット・ベイカーよろしく、囁き声の旋律を香り高く花開いてゆく畠山美由紀のうたごえ。今作はこの二人のささやかさだけで紡がれます。しかし、両者ともシンプルな美しさを表現するに卓越したミュージシャン。二人が掛け合せたミニマムなハーモニーから生まれる、楚々とした音のそよぎは、非常にアンニュイでゆるやかな時間を作り出し、聴き手のこころに陶酔とまどろみを吹かせます。ジャズ・ソウル・ボッサ全てを昇華した要素があり、最もしとやかな音にしてそれらを宿すようです。神は細部に宿るといいますが、当に彼女のうたごえの繊細さに特化した特徴的な音楽作品となりました。
また聴き所は、こんな音数の少ない音楽だからこそ感じとれる余白の部分です。例えば静かだからこそ相対的に感じられる外の光や雨の匂い、或いは部屋の空気感、季節のわびさび、それらが音楽と自然に溶け合い、借景も音楽の一つとして感じさせる作品なのです。つまり、今作のシンプルさは、その行間に聴き所を生んでいるのではないでしょうか。余白の部分に感じることがたくさんつまっていると思うのです。そんな聴かせ方ができるのも品のある演奏の両者だからこそでしょう。
普段から低音を美しく抑制的にうたう彼女が、更に引いてうたっています。そぼふる雨のように、木陰がゆれるように。しかし、はなうたのようで母音は麗しく響き、子音のタッチも清楚です。そしてたっぷり吸い込んだ息をメゾピアノで流す声色は、朝露の草原のようにしっとりとした風をもぐりこませます。だからシンプルな音たちなのに色彩が耽美に映り、こえの小さな宇宙に咲いた美しさを更に発見できる作品でした。それはジェシーの得意とするものでしたし、彼女自身も彼の音楽にとても共感してオファーしたそうですから、この傑作が生れたのはお互いが引き寄せたものかもしれません。
1、2、4.作詞・作曲:Jesse Harris 訳詞:畠山美由紀 3. 作詞:畠山美由紀 & Jesse Harris 作曲:畠山美由紀 5. 作詞・作曲:Marisa Monte 6. 作詞・作曲:畠山美由紀 7(ビリー・ホリディの名曲). 作詞:Edward Heyman 作曲:John Green 8. 作詞・作曲:Hank Williams 9. 作詞:林古渓 作曲:成田為三 10. 作詞・作曲:Jesse Harris 11. 作詞・作曲:Neil Young 12. 作詞・作曲:Lennon/McCartny
ミキシング・エンジニアはノラ・ジョーンズ「Not Too Late」を手掛けるトム・シック、マスタリングは、ジョン・レノン、ボブ・ディラン等、数々の名盤を生み出した巨匠グレッグ・カルビという豪華布陣です。
Summerよりも秋に
★★★★☆
今年もページを閉じた夏の記憶をふと振り返りながら
部屋聴きするのにたいへん適った作品だと思っている。
アコースティックな音色に包まれて心地良さそうに歌っているのが
伝わってくる気がして、リラックスして聴いていられる。
今日のような天気の良い休日、心と身体を普段の緊張から解放して
しばし何もせずに瞑想に耽ろうか。
「リラックスして、喋るように、、、」
★★★★★
畠山美由紀としては4作目?となる今アルバムは、プロデューサーにジェシー・ハリスを迎え、彼女の最も魅力的な部分を更に開花させる傑作となった。
透明感があって、それでいて滋味溢れるボーカルは、表情豊かに色彩を増した観がある。
普段の会話のように、聴くものに話しかけるように歌うアルバム全体のトーンは、ジェシーの“とにかくリラックスして歌うように”というディレクションによるものだそう。
「声を張らずに、喋るように、、、」ということをジェシーはレコーディングの際によく言っていたそうだ。
前作『リフレクション』にある「水彩画」のような迫力も美由紀嬢の一面なのだろうが、
多くのリスナーは今作にある「Universo Ao Meu Redor」に肯くのではないだろうか。
今回のアルバムにも、畠山美由紀、ジェシー・ハリスのオリジナルから「浜辺の歌」まで、多彩な楽曲が収められている。
そのような中でジェシー・ハリスの「明確なビジョン」によって彼女の魅力が鮮やかに浮かび上がり、畠山美由紀の「代表作」といえる作品に仕上がっている。
これから彼女の音楽を聴くという人にまずお薦めしたいアルバムである。
繊細な味わい
★★★★★
日本屈指の歌唱力と表現力の持ち主の畠山さん。
ポートオブノーツや冨田氏のプロデュースした楽曲が好きな方には正直地味に感じるかもしれませんが、彼女のジャズ的なアプローチがなされた楽曲が好きな方には「待ってました」なアルバムではないでしょうか。
ともかく、プロデューサーのジェシーのギターと畠山さんの声だけで殆どが構成されている今回のアルバムは、畠山さんの声がストレートに堪能出来る、普遍性の高い一枚です。
商業性より芸術性に赴きを置いた活動をなさっている畠山さんにとって、ジェシーハリスのプロデュースによる今作は理想的なプロモーションとなるかもしれません。
夏から秋の夜長にリラックス出来る一枚です。