江戸の情緒が肌で感じられます
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現在の築地にあった将軍家ご典医の桂川家。著者はその七代目当主、桂川甫周の娘。安政二年に生まれ、昭和12年に83歳で亡くなっていますが、この本に描かれているのは彼女の幼少時代の幕末と、幕府「瓦解」後の明治初年の様子です。禄高は低いが権威は高かった桂川家の生活、家族の描写、家の周りの様子が克明に語られ、その上品で優しい語り口は読む人を幕末の江戸に連れて行ってくれます。特に、邸に近かった隅田川縁の情景描写は素晴らしい。父親から聞いた12代将軍家慶の暮らし振りや人柄、家に遊びに来た福沢諭吉の様子、など、歴史に名を残した人々も生き生きと描写され、生身の人間として感じることができました。将軍家に仕える人々が大政奉還をどのように感じたか、もひしひしと伝わってきます。
描かれている内容が興味深いだけでなく、江戸時代は本当に日本人が日本人らしかった、また世界のどこにもない日本文化が花開いていたということを知ることができ、読後、ほのぼのとした気持になり、江戸への強い郷愁を感じました。