幕末のことを覚えている老人に当時の思い出を語ってもらった聞き書き集。内容も面白いが、語り口が、生き生きとしていていい。
例えば、 「昔の家督というものは無雑作で、今と違い、面倒なことはありません。御届けさえ済めば故障はないので。先達(せんだって)のお話の通りの大名はイザ知らず、その頃は相続は容易(たやす)いものでした。当今はこの間も孫を養子にするので、区役所へお百度を踏みましたよ。ホイ余計な愚痴を申した。ソコで家督のお礼というのは弁じようか。その御礼の前にこういう御書付が上(かみ)からまいるんだよ。」(177ページ)
また、明治になってから世相が変わったことを嘆いた言葉にこんなのがある。 「ソレに「徳義」という二字ではなかったが、「義」という一字のためには随分と肩を入れて争ったもので、しかるに当今は「徳義」の二字はサテ置いて、「義」の一字のためにも力を尽す人はない。「利」の一字のために一生懸命で、真(しん)に我々老人株から見ると、行末が案じられます。」(183ページ)
どんどんどんどん人間が「利」ばかりを追い求めて来て現在に至るわけだ。
明治になってからは一市井人として暮らしていた人に限って話を聞いており、生活が感じられるのがいい