正しい外国語を理解するのには、まず正しい日本語での表現力を
★★★★☆
私は殆ど英語が話せない時にアメリカに転勤になり、それからが英語の勉強でした。今のように英語学習の手段が豊富でない時代でしたので、兎も角「耳から音で英語が聞こえるようになれば何とかなるのではないか」という発想でラジオの英語放送を聞きつずけました。今流行っている「スピードラーニング」と同じ方法です。どうやら少しずつ聞き取れるようになったのですが、言葉そのものの意味でなく「この人は何を伝えようとしているのか」とか「如何に人の話の趣旨を聞きとるか」という事と、自分が話す際に「自分の言いたい事をどのように表現すれば相手に伝えられるのか」という事の訓練が重要だという事に気が付きました。
自分なりにいろいろ考えた末に出した結論は「正しい日本語を話す人の代表とされているNHK等のアナウンサーや解説者の話をよく聞くこと」と「色々な分野の人の書いた本をたくさん読む」という事でした。これで言葉の使い方と、色々な分野での日本語独特の表現方法を少しずつ身につけることができてきたと思っています。この本にも書かれていますが、日本と外国の比喩には違う事もたくさんありますし、日本では当たり前の表現が外国では禁句とされている事例もあります。こうした事を数多くの事例で説明されているのが非常に新鮮でしたし、ますます言葉の大切さを感じさせられた一冊でした。鳥飼さんは同時通訳者として活躍されていた頃に「こんな天才がいるのか」と尊敬していた方でしたが、この本を通じて数多くの苦労をされた事を知り、改めて尊敬した次第です。
通訳・翻訳論
★★★★★
かなり真面目な本です。著者の通訳・翻訳論です。ひいては、異文化間コミュニケーション論です。歴史の裏話的エピソードもいくつかありますが、それは、この本の主眼ではないようです。通訳・翻訳することで、既に何らかの変換が行われてしまうことは、当たり前ですが、時には重大な結果を引き起こすということがよくわかります。
通訳者としての職責を果たさんとする著者の強い自覚と覚悟
★★★★★
著者(町田玖美子)は東京都生まれ。69年学部卒業(上智大学外国語学部)という事実から引き算すると,1946年生まれ。高三のとき,英検1級特別賞(?)を受賞した。会議通訳は大学2年から。国広正雄とならんで,同時通訳者の草分けの一人。『同時通訳の女神』(命名はBCKTさん)。コロンビア大学大学院修士課程(ティーチャーズ・カレッジ,英語教授法専攻)修了(90年,44歳)。Ph.D(サウサンプトン大学,2006年,60歳)。『百万人の英語』講師(71-92年,25-46歳)。東洋英和女学院大学(89-97年),現在は立教大学(教授,97-年)。著書に『危うし!小学校英語』,『TOEFL・TOEICと日本人の英語力』など。本書は,『ことばが招く国際摩擦』(98年)の文庫化。
どこかでも述べたが,書く訓練を受けていないのか,エッセイ的な文章を出版社から求められているからか,ほかの通訳者・異文化コミュニケーター(胡散臭い・・・)の文章はダラダラである一方,鳥飼のは分析的で説得力を感じる。目次だけではわからないが,政治(経済)と文化までテーマを多岐に渡らせようとしている姿勢は感じられる(さすがに理系のはない)。参考文献一覧があり,翻訳・通訳の理論書とメディア(新聞・雑誌)から採られているところからして,理論と実践を意識しているところも模範的。素晴らしい。
通訳は,発言者の表現を重視すべきか,それとも受取り手の理解を援けるべきかで悩む。私には通訳の経験はないが,翻訳でも似たようなもんだ。原文の「幕藩体制」を“Bakuhu-Han System”とやって九州大学の日本史の研究者に提出したら,“Baku-Han System”に化けさせられて抜き刷りが送られてきた。古文書ばっかりやってると,英語までの距離観ってわからなくなるんだろうか? 僕なりに受取り手の理解を尊重した姿勢だったんだけどなぁ。
歴代の首相が斬られています。自称英語得意の中曽根やら宮沢やらも,斬られてます。東大法学部きってのスーパーエリートにして選民意識丸出しの宮沢は意外ですが,逆に言うと,東大出ててもこの程度なのかと少し安心いたします(いやいや安心はできないよ,むしろ不安だよ)。「黙殺」で原爆投下からはじまって,「善処」で日米繊維摩擦,「不沈空母」問題,「オーク」と楢,「白足袋」と白手袋など,単語一つでその後の展開がガラリと変わる事例を列挙しております。なかなかに面白いです。
ただこれは経済決定主義が叩かれるのと同じように,言語決定主義,コミュニケーション決定主義で,筋は通るが,これだけじゃあ歴史は変わってませんよ,という批判はあるでしょうね。
通訳者としての職責を果たさんとする著者の強い自覚と覚悟が感じられて,とても好印象です。(1172字)
通訳は情報の加工をしていいのか?
★★★★★
専門家としての通訳から見た「通訳」論
専門家としての通訳、といったのは他にも通訳をやる人がいるということ
たとえば首脳会談で英語に堪能な官僚が通訳を行ったり
英語に堪能だと自分では思っている政治家が通訳なしで会談をしたり
専門家としての通訳は情報を「加工」しないという職業倫理が存在するが
会談内容に関わっている官僚が「通訳」を行うとその情報自体を加工してしまったりする
情報の加工の失敗、あるいは加工そのものを誤訳として問題視している
情報の加工の是非に関してはどちらが正しいのかは判断ができないが
通訳というのが本質的にはそういう爆弾を抱えているというのは
通訳を利用する側が深く心に留めておく必要があるのではないか
さらには言葉とそのバックグラウンドの文化の相違に対しても
あらかじめ把握しておかなければならない、ということである
ただタイトルはキャッチーなんだけどちょっと内容とずれているなw
歴史をかえた?
★★★★★
他の評者も書いているように「歴史をかえた」となっているが、そのような事例は期待するほど載っていない。むしろ、鳥飼氏の通訳業の経験から導き出された英語学習上のノウハウ集であり、海外文化との付き合い方ノウハウ集である。そのような読み方をすればこの本は、ウハウハもんである。
鳥飼は、アポロ11号が月面着陸したときの現場からの実況中継の同時通訳で通訳業界にデビューし、それ以後の活躍ぶりは我々英語青年にとっては憧れの的であった。 数年前、久しぶりにNHKーTVの英語講座でなかなかいい講義をしているのを観たが、講評の鋭さは相変わらずでいい仕事をしていると感じ入った次第である。
幼い子供の英語学習に批判的であるのも、彼女の長年の英語教育の経験に裏付けされたものとして、我々素人衆は耳を傾けるべきと思う。