冗談はさておき、浜辺さんの本が面白いのは、第1に、人間観察が鋭いからです。救命センターは、文字どおり、追いつめられた患者や家族の戦いの場です。不安感や孤独感から、心は屈折し、医者や看護師に八つ当たりしたり、心を閉ざしたりします。そういう患者の入り組んだ心理分析は、なかなか鮮やかです。2番目には、ほどよいユーモアがあることでしょうか。特に婦長さんとの会話は、掛け合い漫談みたいです。3番目は、よく知られた病例や負傷例の解説が面白くて、しかもためになることを挙げておきましょう。まあ、この辺のことは、初出の掲載雑誌の読者層を考えたら、当然のサービスかもしれませんが。
ともあれ、いつものように、医者の罪深さという痛奏低音も流れていて、ほろ苦い大人の味が隠されています。