癒し系フランス人作家トゥーサン
★★★★☆
ある日浴室に引きこもってしまう青年の話。
と書くと、ずっと引きこもったまま外界との接触を絶って出てこない青年の悶々とした内面を浴室の湿っぽさと併せて延々と描いた作品、と想像してしまったが、実はそうではない(日本人だからか、どうもそういう想像になる)。
そう思っていると拍子抜けする。
青年は、物語の最初のほうで結構簡単に浴室から外に出てきて引きこもり生活を自主的にやめてしまう。ふつうに同居する恋人と時を過ごし家を出入する業者の男たちとも会話をする。そして、あてもなくイタリアへ旅行して現地の人と交流までする。
ここまでくると、もう行動的には引きこもりではない。かといって自らの奇妙な浴室生活を逡巡するわけでもなく、ただ居心地が良かったからだと説明する。
何度かオーストリア大使からの手紙が出てきて、そこだけ青年の非常にナーバスな面が露わになる。
ごくふつうの素性のはっきりしたナーバスなフランス人青年のごくふつうの日常を描いた作品。と言いきってしまうとつまらないが結果的にそうだしそれが面白い。青年の何かを悟ったような静けさと安心感に癒される。
青年の鋭い観察眼と、作者が映像化を意識してか描写が映像的なのが印象的なフランス人作家トゥーサンの処女作。
究極のマイペース
★★★★☆
ある日、突然浴室に引きこもる主人公の男。
恋人や母親に説得されてもそこで過ごすことをやめない。
ただ日長1日浴室で過ごすのである。
しかしながら日本の”引きこもり”から想像されるとは一味違う。
浴室の外にも出て行くことがあるのだ。
魅力的な彼女もいるし、知り合いの医師の家に招かれテニスを楽しんだりもする。
彼は暗くもないし、全てをあきらめてるわけでもないし、やる気がないわけでも
ないらしい。
ただひたすらマイペースである。
それ以外、彼を表現する言葉がみあたらない。
まことにユニークな小説である。
無内容な小説
★☆☆☆☆
フランスで流行ってるというので、読んでみたが、無内容な小説だった。原文が手元にないので確かめようがないが、誤訳ではと思われる箇所も何箇所もある。訳者は「デカルト、モンテーニュ以来のフランス文学の本流に成り立っている」と解説で書いているが、大袈裟だ。
翻訳の間違い
★★★☆☆
フランス語版(LES EDITIONS DE MINUIT)と、読み合わせて、
どうも、間違いがあるのでは、と思う箇所があり、翻訳者ご本人への連絡網?がないので、
不躾ながら、こちらに、送らせて頂きます。
間違い有り、が残念ですが、全体として、よく雰囲気を出した文章になっていますし、原作の面白さは、損なわれていないと思うので、★3つ。映画も雰囲気よかったです。
P64 (5)舌や歯を口蓋にこすり当てた→舌を歯や口蓋に
p74 (16)ズボンをはいて一階に避難する→オーバーコートを羽織って(袖を通して)
p139 (22)いわしでも丸飲みにするような感じで→にしん
同上 (23)前にかしげた顔に菱形のサングラス→後ろに(アリエール)
p146 (29)シューズを肩にかけて裸足でテラスを→靴下を(ショセット)
引きこもり男?
★★★★☆
作者は、名前から勝手にフランス人と思っていたら、どうやらベルギー人らしい。まあ、作者の国籍なんてなんてどうでもいい。ベルギー人にも、フランス人にも、私にも、誰にも起こりそうなことだから。浴室にこもっていた男が、ある日浴室を出る。引きこもりというほど、彼の精神状態が深刻だった訳ではない。彼には仕事もあり、一緒に暮らす恋人もいる。しかし浴室の外の世界ではいろいろなことが起こる。自宅でも、出かけた先でも、恋人との間にも……。様々な人々との心のすれ違い、ストレス。そういったものから逃げたくなる時は誰にもあるのではないか? もし自分がそういったものから逃げ込むとしたら、場所はどこだろう? 安心してこもれる確固とした自室がなかったなら、私もやっぱり浴室に逃げ込むかもしれない。