なんの補足も説明もいらない、音の名演。
★★★★☆
作曲者が誰とか、曲がどうとか、
そういう説明を一切必要としない名演。
最初の音が鳴り響いた時から、
グールド・ワールドが展開する。
世界一級品の美術品の本物を目にした時のような
直接性で、リスナーを瞬間的にとりこにします。
後は、このアルバムには、いくつかのCDが存在するので、
どのCDを手に入れるかということ。
まずジャケット違い。
ジャケットは、このイラストバージョン
(LPレコードのジャケット)が圧倒的にいいです。
ただしこの輸入盤は、上部に余計な飾りが入っていて、
完璧ではありません。
日本盤に、LPレコードが完全にそのまま使われているものがあり、
入手困難かもしれませんが、それがオススメです。
その日本盤のライナーノートを書いているのは、
『バロック音楽 豊かなる生のドラマ』という名著を書いている
礒山雅氏。
「私がピアニストだったら、ハイドンのソナタをこういうふうには弾かないだろう。
ピアノ教師だったら、こういう弾き方の真似はするなと生徒にいうだろう。
だが、このハイドンはすばらしい。
グールドのハイドンは、作曲者の発想指示を曲から一度取り払い
演奏者自身のアイデアによって再構成したもの」
などなど。その通りという的確な解説文が付いています。
バッハ以外のグールドの名演(3の2):初のデジタル録音による驚きのハイドン
★★★★★
81年、グールド初のデジタル録音による、傑作中の傑作。シャープな音の切れと録音の良さがあいまった、冒頭の玉をころがすようなピアノの一音一音から魅惑される。80年代(つまり最晩年)のグールドの演奏では、あの2度目のゴールドベルク変奏曲の演奏に匹敵する、いや個人的にはそれをも凌駕するのではないかと考える稀代の名演だ。あまりとりあげられることがないハイドンのピアノ・ソナタでここまで美しい音世界を構築するグールドの力量には驚くばかり。グールド・ベスト5を選ぶとすれば、絶対に落とせない作品だ。
この輸入盤はLP盤のオリジナル・ジャケットを採用しているのがうれしい。グールドの写真ではなく、カラフルな模様の絵を使ったジャケット(表だけがそうだったかは、手元にLP盤がないので不明)はグールドらしく意表をつくもので、素晴らしい。日本語の解説を求めたい人は94年発売の日本盤ハイドン 後期6大ソナタ集を、ジャケットにこだわる人は、この輸入盤を求めるとよいだろう。
グールドの作品には聴く順番がある
★★★★☆
1963年頃録音し、1981年にリマスタされているようだ。何しろグールドはほとんどスタジオに籠もりっきりなので録音日時を正確に把握するのは最も難しいアーティストだった気がする。
ハイドンは偽作・真偽未確定作・一部分消失作を含んで58曲のソナタを残したと言われている。このアルバムはその最後の6曲を取り上げている。このアルバムを聴いていて思ったのだがグールドの作品には聴く順番があるように思える。
まずなんと言っても有名なのはバッハなのでフツー、バッハから入るだろう。次にグールドが録音したのはベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタなのでグールドがベートーヴェンのこの傑作をどうさばくか聴きたくなるのは当然だろう。
つづけて古典派のなかでもモーツアルトのピアノ・ソナタをどうさばくか聴きたくなるはずだ。原寮が、『グールドが"平明に"弾いたモーツアルトは傑作になりえただろうが、彼にそういう演奏を許さなかったクラシック学界というのは、私には大したものではないような気がしてくる。「グールドは誰に強制されたのではなく、あのスタイルを創りだしたのだ」と言うファンの声が聞こえてくる。しかし、本当にそうだろうか。』と書いても全然関係ない。聴けば必ず唸るはずだ。ここを通らずにはいられない。
そして次に聴きたくなるのがハイドンのソナタではないかと思う。つまりバッハをああ弾いて、モーツアルトをこう弾いたグールドがハイドンのソナタ(当然、モーツアルトと似た解釈を予想しているはずだ)をどうさばくかを聴きたくなる。
で、次に残りの作品群を探索したくなる。こういうのは優れたアーティストにはよくある現象だが、グールドの場合それが特に強い気がする。だから面白いのだけれど。