切なくて・・・でも力強い!
★★★★★
購入した日に病院の待ち時間つぶしに読んでいたのですが、もう入り込みすぎて名前を呼ばれたことさえ気づきませんでした。登場人物がみんな心に何かしら傷を持っています。特に主人公の少年には、「もういいんじゃないの、自分のこと大事にしてよ!」と読みながら何度も思いました!久々に海外ミステリーの良書に出会えました!読んで損はないです。ポケミスの上下二段、厚さ2センチもまったく苦にならない、おススメです!
読み応えあり
★★★★★
ジョン・ハートの「ラスト・チャイルド」を読了。読み応えのある重厚な作品でした。ミステリです。でもミステリの範疇には収まりきれない、素晴らしい作品です。毎日のように読み続け、そして今日の休日に一気読みです。家族を取り戻すため、また家族の絆を取り戻すため、少年は努力を続ける。大人に負けない努力をする。そしてその努力の元に家族は再生していくのである。
その再生の過程に引き込まれ、ミステリとしての要素も完璧な本作は、良い読書体験を与えてくれました。ボリュームありますが、そんなことが気にならない、時間を忘れた読書体験を与えてくれます。
いやー近年にない充実した時間でした。
何という完成度
★★★★★
少女の失踪事件を中心に、たった2、3日のそんなに大きくない街の騒然とした様子が、実に見事に表現されています。
その美しい情景描写、人物描写に引き寄せられます。
しかも、そこかしこに挿入される子ども時代の回想シーンが、又綺麗です。
そうした描写の美しさに圧倒されていると、短く切られた段落の効果もあって、物語は実にスピーディに進みます。
従って、どうしても読みさす事が出来ず、一気に読んでしまう結果になりました。
かと言って、ミステリーとしてはどうかと言えば、これまた一級品です。
次から次へと展開する物語の進行と、二転三転する謎の解明、見事な大団円と、全く無駄がありません。
その上に、いくつかの家族の問題が扱われています。
その親子の問題があり、しかもその中で主人公の成長が見事に描かれます。
更には、それ自体がミステリーの重要な謎の解明に繋がっていると言う、非常に完成度の高い作品になっています。
久しぶりに楽しくミステリーを読めた気がします。
純正エンタメ本ではないが、今年の翻訳ミステリー屈指の実力作
★★★★☆
世評高い1冊。ハヤカワ・ポケット・ミステリを購入したのは久しぶりだ。ジョン・ハートの著作を読むのは初めて。少し読み始めて、主人公の少年の心の奥底のどうしようもない孤独感と寂寥感に胸が締め付けられた。
唯一無比の存在の双子の妹が失踪して1年。酒とクスリ漬けですっかり変わってしまった美しくて優しい母親も、町の有力者だが、暴力的なその愛人も、蒸発してしまった父親も、妹を探し放浪する先々で遭遇する人々も、唯一親身になって心配してくれるよう見える刑事も、誰も信じられない。たったひとりで妹を探し続けるその覚悟と、家族の再生を願うその健気さに愛おしさを覚えた。
そして、刑事。自らが担当し、未解決案件のひとつとして向き合わなくてはいけない筈が、当事者家族へのある想いから、もはや職分を逸脱しながら、この事件を追い続ける。その執念は、自らの家族を捨て置き、妻には去られ、一人息子との関係はぽっかりと大きな穴が開いたままだ。
連続幼児誘拐、性犯罪、連続殺人。ミステリー&サスペンスの要素を盛り込みながらも、今作が主軸に描いているのは、家族と関係し、生きていく上での苦悩と再生だ。2段組み450ページの長編は、冗長に感じる部分もあるが、それでも読み続けられるのは、その粘着性と心理描写の荒涼としたひりひりとした痛みが心に突き刺さるのと同時に、その先にいつか見えてくるであろう安寧を求めたからだ。
純正エンタメ小説ではないが、2010年度の海外ミステリーでは、屈指と思える実力作。特定の俳優をイメージしながら本を読む事って滅多にないが、今作のハント刑事は、自分の中ではケビン・ベーコンだった。
「するべきことをするのに、遅すぎることはない」
★★★★☆
1年前に妹アリッサが行方知れずとなって以来、双子の兄である13歳のジョニーの家族は崩壊していた。父親は家を出、母は薬物に溺れている。ジョニーは犯罪歴のある近隣住民を監視しながら、妹を誘拐した犯人をひとり密かに見つけ出そうとしていた。そんなある日、ある男が車に追われる現場に居合わせる。そして男はジョニーに「少女をみつけた」と言いながら絶命する…。
早川書房創立65周年&早川文庫40周年記念作品と銘打たれ、ポケット・ミステリとミステリ文庫の二形態で同時刊行された小説です。ジョン・ハートに託す早川書房の意気込みの強さを伺わせます。
前作『川は静かに流れ』同様、紡がれるのは家族の物語です。それも傷ついた家族の再生への祈りともいうべきものです。
『ラスト・チャイルド』では、妹の無事を祈りながら独自に調査を続ける健気な少年、そして彼を見守る刑事、それぞれのかかえる家族の物語が交互に綴られていきます。
『川は静かに流れ』と『ラスト・チャイルド』には贖罪というキーワードが横たわっているように思います。
『ラスト・チャイルド』の終盤で、「するべきことをするのに、遅すぎることはない」という言葉が出てきます。このしごく当たり前の戒めが、実に心に響く物語になっているといえるでしょう。
と同時に、この物語には「神様が遣わした」存在ともいえる登場人物が現れます。神の配剤が、物語を都合よくまとめるために現れるのではなく、人が生きて行く上で、天からの指針としか解釈のしようがないような不思議を感じる瞬間を表現する上で欠かせない者として描かれる。それもまた見事であるといえます。
複雑な謎解きを楽しむミステリーを求める読者向けではありませんが、家族と人生の物語であることを承知した上で読むのであれば、ジョン・ハートは今お薦めの作家だといえるでしょう。
*「双子の妹メリッサ」(457頁)は「アリッサ」の誤りです。