緻密な史実と、大胆な創作!
★★★★★
【ネタばれ】
八重山に流刑になった孫寧温。
流人のみでありながら、
同志として王国府に上がった喜捨場朝薫により、
比較的不自由しない生活が用意されていた。
そんな寧恩のいる八重山に、
ふたたび、外国船籍の船がやってきた。
無理難題を押しかけられた八重山官僚に助けを求められ、
鮮やかに問題を解決する。
そして遠くない将来に、
琉球王府のある沖縄本島そのものが危ういことを予見し、
そのことを王府に知らせようとするが、
逆に流刑を受けてないことがばれてしまい、
新しい八重山官僚に、
王府時代に逆恨みを受ける寧温。
そして、チフスにかかってしまう。
山奥に捨てられた寧温は、
病気に苦しみながらも一命を取り留める。
そして、寧温の姿を捨て、
真鶴となって、暮らすこととなった。
そんな彼女は、
ふとしたことから、王府へ行くチャンスをえることとなる。
首をもたげてくる寧温としての自分。
一刻も早く国を救いたい思いから、
そのチャンスをものにする。
ところがそれは、王の側室候補としての集団試験への参加だった。
複雑な思いを持ちながらも、
真鶴は、側室となることになる。
そこでは、かけがえのない親友となる同じ側室の真美那と出会い、
これまでとは違う“性”で王府に生きる真鶴がいた。
そんな折、
ついに黒船がやってくる。
絶体絶命の琉球王府を救うために、
王が白羽の矢を立てたのは、
八重山に流刑となっている孫寧温だった。
かつてない恩赦によって王府に呼び戻される寧温。
鮮やかに、ペリーを口説き落とし、
有名無実な条約を結ばせることに成功する。
昼は宦官として、夜は側室として、
寧温と、真鶴の二重生活が始まった。
そしてついに、
真鶴が王の子を身籠ることになる。
これまで、琉球王府を守ることを第一としてきた、
真鶴=寧温だったが、
母となることにより、いよいよ真鶴>寧温と変わりつつある。
しかし、
嫉妬に狂った兄により、
真相が明かされてしまう。
琉球王国史上、いまだかつてない大事件となってしまった!!
確かな史実をベースに、
ダイナミックな展開により、
まったく飽きることなく、大長編を一気に読んでしまった。
読後にネットで検索してみると、
史実と重なることがあまりにも多く、感動。
また、沖縄独特の“神”についても、
物語の底辺を支えており、
主人公のみならず、
あらゆる登場人物たちが魅力的に描かれている。
ひとえに作者の、琉球愛以外の何物でもない。
作中の孫寧温の言葉を借り、
何度も出てくる“琉球独立論”は、おそらく作者の本音だろう。
それも、目に見える、明らかの独立ではなく、
現在の体制を維持しながらも、
実質的な自立を訴えるものである。
そしておそらく、
その願いや、あり方は、
ずっと昔からの“沖縄”の姿そのものなのだろう。
そこまで見透かして、
過去の史実を題材に、
未来を語る作者の筆力に、脱帽しました。
稚拙な文章+突飛な展開
★★☆☆☆
「これはプロットかい?」と思ってしまうような文章。
あまりに稚拙。
これを読んで面白いっていうのは違うんじゃないでしょうか。
これがプロットで、ここから話を膨らませるというなら、分かるんですけどね。
と、上巻でレビューしたけど、下巻になると、突飛というか矛盾が多すぎて、コメディーかと思ってしまった。
エンタメは仮の姿。日本人よ、目覚めよ。って感じか。
★★★★☆
タカラヅカの沖縄モノをハリウッド映画にしたようなエンタメ歴史小説で、
とにかく面白いジェットコースター・ストーリーだ、と友達が言うので、
えー沖縄も歴史物も興味ないしな〜、と思いながら手に取った本書。
結論から申せば、面白うございました。
でもこれは、エンタメの皮をかぶった現代社会(文明)批判なんだなと、私は読みました。
琉球を我が物にしようとする列強の間を、美意識と教養を武器にして、
外交の力だけでかいくぐり、琉球王朝を守ろうとする寧温。
小国ゆえに矜持と知恵をもって大国にあたらねばならぬのは、
現代日本とて同じでしょう。
これを読んでハッとする政治家や役人の一人や二人、いなきゃおしまいですよね〜。
私は胸が熱くなりました。
日本に併合されて琉球王朝が滅ぶそのとき、真鶴は日本人の想い人に、
琉球という国は滅ぶけれど、美しく気高かったこの国を愛し続けてほしいと願い
恋人はそれを約束します。
日本人の青年が真鶴と交わした誓いの美しさと、
その後の沖縄のたどった悲運が、実に対照的ではありませんか。
先の戦争で沖縄は甚大な被害をこうむり、首里城は灰となりました。
その後も今日まで、基地の島・沖縄は日本国の捨石のようではありませんか。
寧温はこうした小国の末路を案じていたのですよね。
なんて書いていますが、私は別に何かのイデオロギーを持つ者ではありません。
むしろ歴史に疎いノンポリ(死語?)。
そんな私ですら、読み進むうちに琉球王朝とその歴史について知りたくなり、
なんかケバイわ〜と思っていた琉球の文物に惹かれ始める。
そういう力が、本書にはあります。
リアリティに乏しいとか、表現が軽いとか、皆さんがレビューに書かれている
ことは、もっともだと思います。
でもね、たぶんそれはワザとだな。
内容にふさわしい重厚な文体の、ち密な歴史小説であったとしたら、
本書を手に取る人はこれほど多くはなかったでしょう。
作者は、エンタメの姿を借りて、
より多くの日本人にこう問いかけたかったのではないでしょうか。
日本の国家は美しいのか。
日本人に美意識はあるのか。
日本人は、あの誓いを忘れたのか と。
ホントは重い問いかけを、ライトに読ませる。
そういうコンセプトの本だな、コレは。
と思ったんだけど、深読みかなぁ〜。
ページから手が離せない
★★★★★
舞台は琉球王朝末期,冊封体制下の琉球朝廷で,清朝と薩摩の間を一人の男装の麗人が駆け抜ける!
沖縄県民,沖縄を愛する人のみならず,歴史劇を愛する人全てにお勧めです。久しぶりにページから手が離せないという経験をしました。
ストーリーの面白さもありますが,琉球王朝というものがどういうものであったかという知的好奇心も満たしてくれます。
勢いはすごい。でもディテールが・・・
★★★☆☆
琉球王朝自体が歴史小説、時代小説として取り上げられることが少ない中で、著名な作者が手がけたことはよかったと思う。聞得大君のような表現の難しい存在を物語に溶け込ませたのはえらいなぁと思うし、琉歌を織り込んだのもありだと思う。だけど、どうなんだろう? 感動する要素はなかったなぁ。主人公もあまりにスーパーマン&ウーマン過ぎて感情移入できないし。歴史のルールを守りつつ時代小説として成立させてしまう、という点から考えるとつくづく山田風太郎先生が惜しい。ミステリー小説のように伏線を張り巡らせつつその時代特有の空気(狂気?)にまで感情移入させてしまう力が欲しかった。
沖縄人が「日本人」になる過程にはすごい葛藤があったはず。八重山を清(中国)に割譲する話も歴史的に存在した。主人公より喜舎場朝薫にこそいろんなセリフを吐かせるべきだったのでは?
絵巻物語としては〇だけど、小説としては60点だぁ。