本随筆を読めば、より興味が深まる吉村昭氏の歴史小説
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丹念な取材と、緻密な調査で定評のある吉村昭氏の歴史小説。
本随筆を読めば、さらに興味が深まるのではないだろうか。
本書の中で、吉村氏は歴史小説を書くに立っての姿勢を次のように述べる。
「歴史小説にあっては、史実と史実を埋める部分は、創作によらねばならぬが、
その創作も恐らくこうであったにちがいないという確かな根拠から発したものではならない」
吉村氏は、その史実と史実を埋める作業が、作家としての楽しみであるという。
そして、小説のあり方は多種多様であってよいとした上で、自分は
「物語を興味深くさせるため史実をゆがめる小説」はよくないと思うという。
かつて僕は、別の本で吉村氏が
「自分の小説のテーマに合わなければ事実を切る」と書いてあるのを読んだことがあるが、
それは、歪めないと小説に採用できない事実なら用いない、ということだったのだろう。