大満足
★★★★★
これはとてもよくできた特集です。大満足!
書き手の肩書きが文末に出ているのでチェックしてみたら、とくにおもしろかった
のはアメリカ文学畑の方たちのエッセイでした。わたし自身はこの方面にそれほど
明るいわけではないのですが、そんな読者に対する配慮をどなたもされているよう
です。読みやすい。
まず予言者詩人の系譜からディランを論じた飯野友幸氏の論考が、バランスよく勘
所をおさえています。一方山内功一郎氏はディランのトリックスター的な性格に注
目して、切れ味鋭く同時代の詩人たちとの対比を試みています。そして堀内正規氏
は多角的な視点から、自分自身を発明するディランの自在な生成変化をあぶりだし
ています。
たぶん全体的な総括という点では、佐藤良明氏の談話録が一番よく整理された展望
を示しているのではないかと思います。これをまず読み、その上で先に触れた方々
の個別的な分析を読むのが、この特集の楽しみ方として有効な方法の一つではない
かと思います。
その他におもしろかったのは、音楽評論家の湯浅学氏の談話録でした。ひょうひょう
とした語り口で次々にディランの特徴を言い当てていきます。やはり侮れません。後
ろの方のページに出ているのでお見逃しなく。
20世紀のシンガー・ソング・ライターといえばボブ・ディラン
★★★★★
20世紀のシンガー・ソング・ライターといえばボブ・ディランが去る3月に日本3大都市圏で、久しぶりにコンサートを開き、話題となった。それを記念して企画された特集。ディランは1960年代のデビューから数年して、全米的なシンガーとしての地位を確立するのはご承知のとおり。特に世界的に学生の反体制運動が始まる1968年前後からこうした運動のカリスマ的学生文化支援の教祖のような存在でもあった。
だが天性の作詞を含めて、その影響力は世界的なもので、日本でも彼の生き写しのような友部正人は、谷川俊太郎も認めたほどの純粋詩人に近い作品と生きかたで、今は1年の半分をニューヨークで過ごしているようだが、その友部のエッセイが最初に描き出す短いが鋭利な詩論も秀逸。ピーター・バラカンと管野ヘッケルの対談も流石。他に、平素の仕事からみると意外な市田良彦氏なども寄稿している。もちろんアメリカ文学・文化研究で著名な佐藤良明や長畑明利、そして詩人瀬尾育夫のエッセイなど21世紀の現代を牽引する詩人・詩論家の寄稿も重要。巻末には解題つきのディスコグラフィー、本文中にはディランの写真作品と訳詞による詞華集を収めるおしゃれな1冊である。10代の終わりから20代前半にかけて友部正人のライヴを頻繁に聞いていたものには、本特集の巻頭にエッセイの寄稿を求めた編集部の目の確かさは、評者の思いでもある、日本のディランは友部正人。