ヴィニー・カリウタ(ドラム)、マイケル・トンプソン(ギター)など、世界的なミュージシャンが参加、プロデュースとアレンジを瀬尾一三が担当した32枚目のオリジナル・アルバム。「あぶな坂」「わかれうた」といった人気曲をリアレンジして再録するというセルフ・カバー的性格の強い作品なのだが「いまのきもち」というタイトルからもわかるように)2004年の中島みゆきが歌うことで、過去の名曲がまったく新しい表現として再構築されている。ひとつひとつの音と言葉に神経が行き届いた、あまりにも完璧なヴォーカリゼーションに圧倒される。(森 朋之)
70年代〜80年代の名曲をセルフカヴァー
★★★★★
初期から中期から選ばれた楽曲を「今の中島みゆき」の音楽文法で再構築しなおした作品集。LAレコーディングが常習化した後の作品では、パラダイスカフェとこの作品ができがいいと思われます。聴いて頂くと分かるように、ヴィ二ーカリウタのドラム、マイケルトンプソンのギターがあればこそのでき。個人的には、分厚いオーケストラを排して中島みゆき本人のアコースティックギターを隠し味で聴きたかったなと思いますが、これはこれで聴きやすくまとまっています。
確かにちょっと物足りないが…
★★★★☆
「いまのきもち」という題名のせいで、中島みゆきのいまのきもちを感じ取らなきゃと身構えてしまいがちですが、そうすると肩透かしを喰らいそうなアルバムです。「わかれうた」は上品に歌っちゃっているし、「怜子」はオリジナルの重苦しい歌唱とは打って変わって、優しい感じの歌い方になっています。アレンジは無難なものばかりで、面白みもありません。
中島みゆきのセルフカバーアルバムはいくつか出ていますが、その中では駄作の部類になると思います。
ただ、このアルバムに聴く価値がないとは思いません。私はこのアルバムの独特のライブ感がとても気に入っています。アレンジは無難とはいえ、当たり外れの多い昔の楽曲に比べたら上質で安定した出来だし、中島さんの歌唱は、上手さだけを見ればどの曲のオリジナル版よりも成長しています。
だからこのアルバムは、軽い気持ちで、中島さんのライブを聴く感覚で聴くと、なかなかいい気分になれるのではないかなと思います。
瀬尾氏とのタッグが始まる88年11月『グッバイガール』より前の楽曲を瀬尾色でセルフカバー
★★★★★
楽曲に新しい風景、深みのある情感が生れています。新しいいのちが吹きこまれているわけですが、むしろニュアンスとしてはうたに年輪が加わる感じです。あの2「わかれうた」にもそれが刻まれました。例えば歌声ですが、さらっと聞き流すだけではサビの高音跳躍が不安定のようにみえます。しかしよく聴くとその細いゆらぎの中には、齢を重ねたからこその情感の哀れさ儚さの表現が聴き取れるのです。いうまでもなく、中島みゆきとはそういう微細な声表情にまで意図のある音色をこめる歌い手です。そういう意味で、今作の聴き所は原曲とはまた別の次元で“うた”の深みを増した姿を、“我々のいま”と照らし感じ取ることの多い作品でした。
3「怜子」。かつての迫力とおどろおどろしさを情感にこめたうたと違い、悲哀も愛も包み込むようなうたい方をしています。主人公の心情に透明な風が吹き抜けるようで、瀬尾氏の編曲にも温かみと哀れさがあります。
7「歌姫」。後半の歌表情が徐々に変わってゆくのが見所。それで酒の入った主人公の心情や行間が益々リアルに描かれます。その歌力には、グラスの向こうの届かぬ夢へ視線を注ぐ主人公の眼と我々の眼とがシンクロしてくるような表現力があります。しかも演じるというよりも、演技ではない“想い”と一体となったものです。うたよりも先に心が届き、そこへ声と旋律が後から辿りつくような素晴しい演奏です。従来の青木望の編曲では情感を作るベースを印象的に用いシンプルな作りでしたが、瀬尾氏はストリングス、ギター、ドラム、ピアノどれもうまく調理しながら情感を彩ります。
9「横恋慕」は導入の静かなベースソロや、その時の彼女のひそめた声表情に新しい妙がありました。そこから朗々と歌う展開も、『夜会』を経てきた説得力が違います。
瀬尾カラーだけなら新鮮味は薄いのですが、みゆき氏の今のうた表現や、LAの一流ミュージシャンらによる繊細な演奏が、大人の今の我々へこそ染みるわびさびを紡いだ作品になっていました。
ミュージシャン
★★★★★
LAでやってきた事の集大成だと思う。楽しそうに歌っているみゆきさんの姿が目に浮かぶ。彼女は照れ隠しに次のオリジナルアルバムまでの繋ぎにと言うがそうじゃない。こういった作品を残しておきたかったのだ。英語詞のカードが入っているが、彼女の音楽は海外にも伝わるのだ。中島みゆきはシンガーソングライターであるが、バンドマンでもある。歌詞にだけ目がいきがちだが、彼女は非常に優れた音楽家なのである。いまさらだが。なるべく良いヘッドフォン、ステレオで聴いて下さい。
ミュージシャン中島みゆきに会えるでしょう。
敢えて辛口
★★★☆☆
「いまのきもち」。このタイトル、そして懐かしい曲たちのセルフカバーと聞けば、多くの往年のファン(自分も含めて)が過大な期待はしちゃイカン!と自戒しつつも、かなり期待したに違いない。
昔は良かった、とは言いたくない。あの頃は、とかも言いたくない。でも、だめだ。「いま」の「きもち」が伝わってこなかった。
元の曲は、みゆきさんの歌い方も(失礼ながら)いまほど巧くなかったりして、荒削りな感じがするものもある。アレンジも、いま聞き返すとちょっと古い感じがして恥ずかしく思ってしまうものもある。それでも、そのときの「いま」の「きもち」が伝わってくる。だから心が震えたり、新しい何かを感じたりする。
このアルバムの曲たちは、コンサートで聞いたらきっと「瀬尾さんver.でのこの曲」と思っただけだと思う。でも、アルバムとして出されてしまうと、どうしても一言云いたくなってしまうのだ。