ストレートに響いてくる曲ばかり
★★★★★
「顔のない街の中で」「Nobody Is Right」など、今までの自分の行いを反省させられるような歌詞の曲が多いような気がします。
また、全体的にロック色の強い曲が多いので、若い人でも満足できる思います。
人の絆の重さを説く“愛の鞭”的一作
★★★★★
アコースティックギターが印象的だった前作『ララバイSINGER』がとは対の存在のように、喝を与えるような力強いロックナンバーが目立つ。
「改革に痛みは必要だ」「24時間営業はCO2削減に影響しないし、絶対必要だ」と気を吐く為政者や経営者の声がある。 しかし、彼らは直接痛みを被らないし、逼迫した生活のために深夜のレジに立つことはないはずだ。 痛みによるうめき声に耳を澄ましたりおだやかな夜を暮らせない人間を見つめ、その苦しむ人の身に寄り添っているならば、そんな戯言は吐けないはずだ。
政府は国民を、経営者は従業員をというふうに、どんな形であれ上は下を支配する。 その上がすべて正しいとは限りない。 常にチェックをして、その政策があやまちと気づいた時どう対応するかが重要だ。 軌道修正して被害を最小限に止めるか、「自分は正しい」と非を認めずに傷を悪化させるか、それによって下の人間は左右される。
「Nobody Is Right」を聴くと、そういう人々や(時代が変わったのに)50年前の国策を推し進める某省庁、そして米ブッシュ政権を思い出さずにいられない。
たかだか“遊ぶ金”のために、老いてまで貯めた人の資産や命を一瞬で奪う愚か者。
仲間内だけで固まりたいだけに、そこにそぐわない人を手段を選ばずに追い出す愚か者。(そんな奴らのために失業した経験を持つのは、自分だけじゃない筈だ)
市場原理・成績主義がルールとなって以来、こんな感じで他人の痛みに無関心を装う者がなんて多いのだろう。昨今は会社の経常利益は赤字になっていないし社員にボーナスを渡せる程なのに、派遣・パート・請負業者をかんたんに切り捨てる無責任な大企業が話題となっている有様だ。
報復で犯罪に走るのは決して許されないが、そんな時代やこの国の空気が怒りと鬱屈でいつ暴発してもおかしくない状況を作ってしまったのではないか。
他人の痛みは、必ずどんな人間にも波及するものであり、高価なセキュリティが自分を護ってくれる保障はどこにもない。
「顔のない街の中で」はそんな奴らを断罪してくれる。
「ならば見知れ 見知らぬ人の命を 思い知るまで見知れ」と。
そんな奴らばかりの世の中。 でも生きる為には食わなければ、社会に出て稼がなければいけない。
それがわかるから、みゆきさんは“愛の鞭”として「本日、未熟者」「サバイバル・ロード」「背広の下のロックンロール」を歌ってくれる。
おう、負けてはいられない。
人間は一人では生きてゆけない。 だから分かり合うことが必要だし、愛が必要なのだ。
「惜しみなく愛の言葉を」や見返りを求めない愛を唱える「I LOVE YOU、答えてくれ」と言ってくれる人が身近にいたなら、どんなにか力強く充実した人生が送れるだろう。
出会いは一瞬で永遠の「一期一会」。 それが良い縁ならば一生ものになる。
こんな時代だからこそ優しくありたいし、もっと優しくなりたい。
一人一人(特にトップ層の人間)がそう思うようになれば、もっと良い世の中になると信じている。
(PS:みゆきさん、We love you,too!)
今を生きる者への目線の高さ
★★★★★
『転生』『ララバイSINGER』と続く、中島みゆきの三部作(今に生きる者への応援歌としての)。ともすれば日常の中で言葉とは裏腹の想いで生きている名もない者に対する思いやりのメッセージがダイレクトに伝わってくる。不器用に生きていくことに対して世間の風は冷たい。けれど不器用であることが決してオカシナことであるとは限らない。普通であること、他の人と同じようにすることに何の意味があるのか。そして普通を装っている人も何処かで自らを疑っていながら、そうした素振りで日々を生きているのではないのか。最近は勤め帰りのサラリーマンが中島みゆきのアルバムを買っていくとも聞いている。『本日、未熟者』『背広の下のロックンロール』はそれを見事に体現した作品。『一期一会』『昔から雨が降ってくる』はサウンド的に何かホッとしたモノを感じさせる。ギスギスとした社会の中で、人々が辿り着いた場所、それが中島みゆきの言葉なのかもしれない。
みゆき節、健在なり
★★★★★
どの楽曲も、素晴らしい完成度だと思います。しいて言いますと「一期一会」のサビのあたりから一番レンジの高くなる部分がコンピュータ処理する時オーバーダビングとなり、はみ出した部分がカットされつぶれて音が割れているのです。この曲以外は全く問題ありませんでした。こういう場所で発言する事ではないと思いましたが、気になりましたので。
清濁両方を見つめ生きてゆく姿勢が良い
★★★★★
社会の中で惑う者へのアルバムといった印象です。
組織と自分、他人と家族、本音と建前、世界と日本、
様々な対比の中で、たくさんの不条理が存在し、それを否定することなく、
それでも自分の本心はどこにあるのか?愛を注ぐ対象は何なのか?を問いかける。
夢はきっと叶う、頑張れば報われる、そんな気休め歌詞は一切ないのに、
彼女の見つめる眼差しは希望に満ちているよう。
前作ララバイSINGERが夜の歌なら、
今作は昼の歌、今この時を生き抜くための応援歌なのかもしれません。