まさにワンダーランド
★★★★★
「翻訳ワンダーランド」というタイトルどおり、今の常識では考えられない翻訳についてのエピソード集、という感じ。
ただ、どんなに破天荒なエピソードでも、そこには明治・大正人の真摯な姿勢が垣間見えてすがすがしい気分になる。
著者の軽快で、ちょっとワル乗りしているような文体は好き好きだろうが、本書にはマッチしていると思う。
著者の翻訳というものに対する思いも随所に織り込まれているが、この文体のため、それでも気軽に読める本に仕上がっている。
それにしても、ミステリーばかり売れて純文学が売れないというのは、この頃からあった話なんだなぁ・・・。
翻訳者の考えていること
★★☆☆☆
著者はミステリやサスペンスを得意とする翻訳家。ふとしたことから明治・大正の翻訳事情について調べることがあり、その成果をまとめたのが本書。
取り上げられているのは若松賤子の『小公子』、黒岩涙香の『鉄仮面』、島村抱月の『人形の家』など14作品。ほとんどが有名な作品。
内容はかなり個性的。文学史でも社会史でもない。翻訳事情についての研究でもない。当時の訳書を見て、現代の翻訳家が感じる問題をテーマごとに書き綴ったものなのだ。たとえば、『小公子』なら、会話文を生き生きと訳す工夫。『ポンペイ最後の日』が関東大震災の直後に訳されたことについては、タイムリーな出版の問題。『フランダースの犬』では、ベストセラーをつくる方法。どれも面白いといえば面白いのだが、読者の関心とはずれているような気がする。
職業的翻訳家が読んだら、「そうそう、そうなんだよ!」と狂喜するかも知れない。
この情熱や気迫の根源は?
★★★☆☆
翻訳という作業は原作とは異なる、またある意味では原作以上の芸術的な創作の営為です。特に明治の翻訳初期の作品は、その誤訳や大胆な翻案ぶりはいつも否定的な側面からのみ語られてきましたが、この作品は、その翻訳家の悩みと喜びの跡を、同業者の目から、肯定的に、たどろうとした作品です。いろいろな作品の翻訳並びに翻案の経緯がたどられているのですが、事実の発掘に徹するのか、それとも翻訳の導入における日本的な特徴の分析にも議論を進めるのか、ちょっとどっちつかずになったようです。鴎外の妹である小金井喜美子の翻訳や創作活動の始まりと終焉の部分は興味を持って読むことができました。