ウィーン、プラハ、ブダペストの街の成り立ちを知る書
★★★☆☆
美しい魅力的な中欧の古都の歴史や文化の流れ、建造物の様式の変遷を縦糸にし、様々なハプスブルグ家のエピソードを横糸にして織り込んだエッセイのようでした。
口絵も代表的な文化財や主要な人物の肖像画が掲載してあり満足しましたが、肝心の都市の地図が巻末にあるのを読了するまで気付きませんでした。最初に掲載してこそ、これらの都市群や建造物の関係がはっきりしますので。これらの都市を訪れたことのない読者にとっては、三都物語のガイドブックの役割を果たしていないことになります。
音楽に関しては豊富な話題が盛り込まれており、興味をもって読みました。内容は類書に書かれているもので、新鮮な驚きはなかったのですが、都市と音楽家の視点から再構築して捉えてみると、文化の熟成過程が理解できます。
筆者が2年間暮らしたウィーンの記載が多く、ブダペストの話題をもう少し盛り込んでほしいという希望と、バランスの悪さを感じました。皇后エリーザベトが愛した街ですし、ブダとペストの街の個性の違いももう少し述べて欲しかったです。セーチェーニ鎖橋をはじめエルジェーベト橋など、ドナウ川にかかる橋の大切さは十分に語られていますが、それ以前の両都市間の発展度合いの違いや文化や歴史の違いなどを詳しく知りたかったと思っていますので。
政治史だけでなく、音楽や建築、宗教と言った観点からのアプローチもバランスの取れたものですが、これらの街を良く知らない、もしくはハプスブルグを知らない読者にとっては分かりにくく、羅列的な記載に終わっているのも気になるところでした。
歴史、文化(建築、音楽)、味覚を切り口にした中欧三都の物語
★★★☆☆
本書は、ハプスブルク帝国の中核として成長し、文化の香りかぐわしいウィーン、プラハ、ブタペストの三都を歴史、文化(建築、音楽)、味覚(カフェ、ワイン)を切り口にして概観する。第一章が三都の形成史、第二章が三都の建築史上の重要建造物をとりあげる(ウィーン:バロックから分離派へ、百塔の都プラハ:アール・ヌーヴォー、レヒネル・エデンとブタペスト世紀末建築)。第三章は現在の中に含まれた過去:音楽とカフェを楽しむ、として専らウィーンに焦点を合わせ、大音楽家の足跡、著者滞在時の演奏会事情、そしてカフェとワインおよび代表的ウィーン料理等を紹介する。異なる民族の都として各々独自性をもちながら、ハプスブルク帝国の都市同士が影響し合い、歴史と文化が重層的に重なって三都それぞれが人を惹きつける個性を持つに至ったことはよくわかった。旅に誘う本である。
ただ、この本は私のようなハプスブルク帝国の歴史程度の予備知識しかない者には読みづらい。巻末に地図、口絵にカラー写真、そして本文中にも要所にモノクロ写真が挿入されているが、地図にものっていない、写真もない場所や建造物を頭で想像するのは辛い。また、知らない言葉が何回か使われた後に詳しく説明される(例:ユーゲントシュティール、ホイリゲ)。索引があればと思う。旅行ガイドとあわせて読むのが良いかもしれない。
展覧会のプロモーション本?
★★☆☆☆
ハプスブルク帝国下で繁栄の基礎が築かれた中欧三都市の平易な入門書として一応評価は出来る。
著者の嗜好によるものか、音楽、カフェに比較的多くの紙面が割かれているが、何れも現時点で無難な史観によるものではあろう。とはいえ、ウィーンを「音楽の都」と呼称することや、「ウィーン風」とされるワルツのテンポ(の崩し方)には異論もあることは認識したい。また、ウィーンフィルに対する憧憬の念はいじらしい程であるが、考えてみれば、同フィルとて長い音楽史の流れの中の、直近の150年強を占めるに過ぎないものであり、歴史の中に埋もれていた音楽を再現しようという壮大な試みの一環を担った拠点の一つが、他ならぬこのウィーンであることも言及する必要があるだろう。
また、ヨハン・シュトラウスはカトリックに改宗したユダヤ系で、ナチスも他のユダヤ人(系)音楽家に対したような迫害処置は採れなかったことを紹介したことについての意義はあるが、三都市の文化に多大な影響を与えた、書中にも例示される人々の多くはユダヤ人(系)であることも、周知の人も多いとはいえやはり記す必要があろう。
カフェや食事紹介に至っては旅行ガイドブックに任すべき記述も多いが、ゲッサーを「ウィーンの地ビール」との脱線も見られる。
ここまで記して気が付いたが、中央公論新社=読売であるが、同紙主催で開催中の「ハプスブルク」展のプロモーション本として読めば、それは多大な効用があろう。