難しいところを飛ばし読みすれば有用な良書になりうる。
★★★★☆
本書では、うつ病に至る気持ちの変化を「ネガティブ・マインド」と称し、その発想から脱出のための思考方法やネガティブ・マインドの有用性を検討しています。
ポジティブシンキングが出来なくなり、ネガティブ・マインドに支配されるうつ、うつ病に対して、まずはいくつかの方法(運動など)で脱出できることを提唱し、さらにはその思考体系をリスク予防的に有用であるなどのメリットとして紹介しています。
ネガティブは盲目的に悪であると思っていた私は、少し気が楽になりました。後はうまく抜け出す方法を自分の中で癖にすればいいのです。もちろん、言うはやすしですが、積極的にトライしてみたい考え方です。
中盤、ちょっと学術的で退屈な箇所がありますが、上手に飛ばし飛ばし読めば、なかなか有用であると思います。
凹みの精神の構造
★★★★☆
一般的に「うつ」と呼ばれる凹んだ心理状態が生じるメカニズムとその解消法を、社会心理学の知見を用いて論じた一冊。精神医学や生理学などの専門家による「うつ」論に比べるとずっと読みやすく、日常的な見識も多く盛り込まれていて非常に参考になる。
ポイントとなるタームは、「認知」そして「自己注目」。人間が凹むのは、とてもしばしば自分の身のまわりで起った出来事に対する「認知」が歪んでいるから。思いがけぬ失敗や対人関係のちょっとした不協和を、必要以上にネガティブに意味づけ、過分な苦悩の原因を自ら造りだす。また物事がうまくいかず凹んでいるとき人は「自己注目」を強めやすいが、この「注目」のなかで現況のネガティブな気分が、過去の自己情報の中から同じくネガティブなものを探索・発見・意識化させ、ますます凹んでいく。たいていの人にとって身におぼえのある経験ではないかと思う。
こうした凹みの精神から脱却するための方法として、著者は例えば運動・睡眠・環境の変化・悩みの打明けといったかなり即効的な解消手段を提示しつつ、だがより長期的に役立つであろう心理学的な対処法も紹介する、すなわち、ネガティブな「認知」が生じた際には、その「認知」に引きずられてネガな情報ばかり精神内に収集するのではなく、事態のポジティブな側面にも注意を向け、ネガ/ポジのバランスのよい「認知」を達成しようと述べる。もっともな話だと思う。
また、ネガティブな「自己注目」にしても必ずしもマイナスばかりではなく、その「痛み」を通して自己成長をなしとげることも出来るだろう、と凹みの精神との上手な付きあい方も示唆している。この「凹みの弁証法」のような過程も身に覚えのあるところだが、本書を通読して、改めてその経験の意義を再認識した。