変わりゆく民俗と葬儀屋さん。
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日本のお葬式をめぐる画期的な研究書。著者の博士論文がベースである。
なぜ画期的かといえば、「葬祭業(者)」というファクターを本格的に導入してきた民俗学的葬儀研究の著作として、本書は本邦初の作品だからである。これまで、民俗学者が書く葬儀についての本といえば、マクラ飯がどうの魂ヨバイがどうのお棺の回し方がどうのといった、不思議で楽しい「民俗」的な諸事物に関する展覧会的な書物が多かった。そうした傾向性とは異なり葬儀の現代的な変化を問う作品も今まで無くはなかったし、碑文谷創氏(民俗学の専門家ではないが)によるジャーナリスティックな葬儀論などは現状認識を深めるための著作として非常に有益であるが、しかし、「民俗」が生きる地域社会と葬祭業者が大活躍する「現代」の双方についてよく調べよく考えながら、学術的にじっくりと煮詰められた議論を展開しまとめあげた著作は、これが初めてであるといってよいだろう。
「世間並みの」葬儀のあり方を顔の見える地域社会が決定(規制)していた時代がすぎつつあり、葬祭業者がお葬式の執行(現場での実践)に関する知識をなかば独占するに到った現代において、「民俗」はいかに変化し、そこで生きる人々は何を感じ考えるようになったのか?あるいは、死者を他界へと送り出すための儀礼である(はずの)葬儀は、他界観念が希薄になり現世だけがすべてであるように思えてしまう現代において、いかなる意味の変容を遂げているのか?そうした問いに対して、たとえば業者の発展とその利用のされ方を歴史的にふり返ったてみたり、たとえば業者の地域社会への定着過程を実地調査にもとづき綿密に追求してみたり、たとえば昨今の葬祭壇の装飾のされ方を色々と検討してみたりしながら、あくまでも実証的なスタンスを崩さずに答えを出そうと著者は試みる。個別の地域や具体的なモノの内実にこだわる、という方法ゆえに、その事例から出た解答をどこまで一般化できるのか、という疑問はいかんせんぬぐえないが、しかしそのミクロな思考でしかわからない重要で確かな発見があることは間違いない。
死をめぐる民俗(文化)は、これからますます商品化されていき、業者さんたちによる専門化が進んでいくことだろう。分業の徹底である。かくして死に関する知や技法を知らなくなった私たちは、これから死とどのように向き合っていくべきなのか?それを考えるための判断材料が、本書には満ち満ちており、役に立つ。