天国の毒
★★★★★
2010年夏、印象派ばかりが騒がれる美術展の中で、
広島現代美術館の「HEAVEN」展は、ひときわ毒々しい異彩を放った。
同展の図録である本書は、都築響一の膨大な著作をぎゅうっと圧縮した一冊だが、
たくみな編集で、新作と思える出来になっている。
スナック、ラブホテル、秘宝館などへの都築の偏愛は、常識的な審美眼とは相容れないだろう。
だが鶴見俊輔は30年も前に「モナリザよりコルゲンコーワの人形の方が、心に訴えてくる人がいる」と喝破した。
21世紀の今では、本書のスター、広島の名物ホームレス、太郎さんの姿に、
ゴッホの糸杉よりも、胸騒ぎを感じる人も少なくないはずだ。
実際、毒の香りに誘われたのか、展覧会は若い女性客が多かった。