皮肉なのに優しい
★★★★★
エイミー・ベンダーを読むのは本書がはじめてだが、どれをとっても不思議な感触の小説だ。
題材が不思議だというだけでなく、読み心地が不思議なのだ。
著者はきっとちょっとひねくれもので、皮肉屋で、でも率直な感性と透明な心の持ち主(矛盾しているが)なんだろうな、と思わせる。
どの物語の登場人物も少し寂しい。もしくは現実に微妙な相容れなさを感じている。その描き方はどこかクールに突き放しているのに、注がれるまなざしは優しさに満ちている(ような気がする)。
登場人物に同化していくような、安直だけど読者としてはごく一般的な読み方はできず、だからといって客観的に分析するような読み方でもなく、見えない第三者としてそっと彼らに寄り添っているような不思議な感覚で読んだ。
大好きだ。
ありえない奇妙な世界に生きる人々が織りなす小説世界に心を遊ばせよう。
★★★★☆
処女短編集「燃えるスカートの少女」から7年の歳月を経て2005年に刊行された米国女流作家エイミー・ベンダー待望の第二短編集です。著者の描く世界は、一見非常にさらりと書かれていて読み易いのですが、登場人物達の感情は冷静その物で捉え難く淡々と進行し、ありきたりの終わり方をする物語は少ないですので、普通の教訓的な読み方をあてはめるのが正しいのか判断に迷わされる場合があります。本書の中で例えると『終点』は大きな男に鳥かごで飼われていた小さな男が脱走し、自分達の小さな社会へ逃げ込んで男に見えない家の中から憐みの眼差しを向けるという話ですが、これは人間に飼われるペットが実は飼い主を軽蔑していて、違う種族は結局理解し合えない物なんだと暗示しているという風に思えますが、これが唯一の解釈かと自問すると断言する自信はありません。もうひとつ感じるのは、それぞれに物語として一旦ある結末は迎えますが、そこで閉じられるとは限らず想像力を働かせればまだまだいろんな方向へと続いていきそうな気持ちにさせてくれるという点です。本書収録の全15編を読み終えた後、私にとって最大の魅力と思えるのは、感動する部分や感じ方がこうでなければならないと固執する必要はなく、読み手の感性によって自然に湧き上がる感情に素直に従えば良いという自由さです。ありえない奇妙な世界に生きる人々が織りなす小説世界に心を遊ばせて、あなたも自由に想像の翼を広げられる事をお奨め致します。