福祉国家を考える良質の基礎資料
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本書はフィンランドが福祉国家を形成する過程を歴史的に追ったものです。
福祉国家の形成は、福祉サービスの形成から、社会保障制度・社会サービスへの移行、そして地方分権によるサービス実施主体の基盤確立というように、変遷していきます。その過程で、政党間の力関係の変化や駆け引き、労働組合や経営者団体の社会的影響力の増大、行政組織の構造変化など、社会が劇的に変化していき、その中で福祉国家の問題が中心的に取り扱われていることが浮き彫りになります。戦争や景気変動などの外的要因に晒されながらも、フィンランド国民が一途に福祉国家を守り育ててきた情熱を、行間から感じるかのようです。
本書において取り扱われている社会制度は、国民年金、失業保険、労働年金、健康保険、公的扶助、そして地方自治(地方分権)で、これらを歴史の中で生成、変遷を見ていきます。上記では労働年金といわれる厚生年金のようなものを除けば、日本にもある制度であり、日本のものと比較をするための貴重な有力な基礎資料となりうるものです。また、フィンランドの歴史的な考察のほかに、北欧型福祉国家についてや、フィンランドにおける社会政策理論の変遷も考察しており、福祉国家についてかなり詳細に知ることができます。
2008年現在、教育先進国として、日本でも大きな注目を集めている北欧の小国フィンランドですが、その根本である社会形態を知るには格好の書だと言えます。何より福祉国家の形成過程を丹念に分析してあるために、日本、あるいは他国の社会制度と比較する上で、大変参考になるものだと思います。フィンランド社会について、もしくは北欧型福祉国家を知る上で、最良の本です。