フィンランド社会の独創性を見る
★★★★★
本書は教育先進国として世界中から大きな注目を浴びているフィンランドのソーシャル・イノベーション=社会的な改革をハンドブック形式で紹介したものです。
世界一の教育を支える無料の教育制度や図書館制度を始め、高度な福祉を実現する手厚く多様な住宅政策や労働支援政策、国民の健康維持・疾病予防のための綿密な保健体制、社会問題を自ら解決していく多様な市民組織、などなどフィンランド社会を大きく発展させた社会制度の特徴が111の項目にわたって紹介されています。現在、教育と情報産業にのみ焦点が当てられがちなフィンランドですが、それらの成功の土台には民主主義を徹底させた効率的な福祉国家があり、その社会の特徴を政治からお菓子まで幅広く知ることができます。
また、各項目はフィンランドの政策当事者や専門家が執筆を担当しており、信憑性があり、加えて当時の内情や当事者の思いや苦悩なども率直に述べられており、楽しく読むことができます。冒頭でハロネン現大統領が一文を寄せており、まさにフィンランドを挙げてのフィンランドハンドブックといえます。
フィンランド社会についてその全体像や特徴を網羅的に把握するには、またとない良書です。制度疲労が叫ばれる日本の政治や行政、社会運営の現場で、本書を片手に仕事をする人が増えるのではないかと思います。
日本がフィンランドに学ぶべきことは山ほどある
★★★★☆
フィンランドは、社会民主主義の根づいた福祉社会、近頃では子どもの学力世界一の国として知られ、また、ノキアやLinuxなどのIT、はたまたムーミンの国としてもなじみのある北欧の小国である。グローバリゼーションの波にもまれ先進国に格差と貧困が広がる中、高度の社会福祉を維持していることで、最近北欧諸国は脚光を浴びることが多いが、本書を読むと、フィンランドにおいては数十年来、あるいはそれ以上の歳月をかけて多方面にわたる社会改革―ソーシャル・イノベーションがなされてきたことが分かる。そしてそうした取り組みは、単に現代世界において優位性を誇るのみならず、ポスト資本主義社会への萌芽を内包していることをも示唆しているような気がする。
例えばそれは、各種NPO(NGO)の数の多さ、多様さにも見てとれる。また、教育・文化・芸術・スポーツなどを市民レベルで取り組むとともに、国がそれを支援する関係がなりたっている。
といっても、そこは決してこの世にあり得ない「地上の楽園」ではない。失業者もいれば、ホームレスもいる。しかし、そうした人々をしっかり社会の網の目からとりこぼさないシステムもまた確固として確立しているのも事実である。
翻ってこの日本の現実は……1990年代以降ネオリベラリズムが跋扈し、それを「小泉改革」が政治的にバックアップしたあとは、格差と貧困が蔓延し、小泉以降、肝心の政治は腐敗・堕落を極め、アメリカ発の世界同時不況に端を発した資本主義崩壊の始まりの前に、ただなすすべもなく手をこまぬいている……その上、超高齢化社会到来の前に少子化対策も打ち出せず、今後数十年続くであろう資本主義崩壊過程で、人口も減少し、国そのものが消滅の危機に瀕するやもしれない……。
そんな日本にとって、フィンランドから学ぶべきことは山ほどあるだろう。読んで決して損しない1冊である。