タイトルにだまされることなく、資料として
★★★☆☆
題名といい、エディターのレビューといい、この本はフィンランドの競争力について多面的に捉えているという印象を与えるが、実際にはこの競争力の1つの源泉であるベンチャー創出の土壌に焦点が当たっている。別の言い方をすれば、有名なフィンランドの教育についてはほとんど記述はないので、ここを期待されている方は別の書を選んだほうがよいだろう。
このベンチャー創出の土壌について、構造的に、そして具体例を織り交ぜながら述べているのは和書では稀有といえるが、これに対する分析のレベルが高いとはいえない。例えば、フィンランドの起業家達には、IPOで大儲けしてやろうというアメリカのアントレ的な発想は薄く、小国フィンランドの名を世界にとどろかしてやりたいという願望が強い、という話がでてくるが、このモチベーションはどこから来て、それがフィンランド経済がグローバルな資本主義にどっぷり飲み込まれても続くのかどうかという、致命的な問題について著者なりの分析をするべきである。また、後半の各企業の紹介は冗長なインタビュー形式で書かれており、字数稼ぎとしか思えない。これら一連のインタビューをまとめて帰納的に本編をサポートすることもできたはずだ。
繰り返しになるが、本書は情報としては貴重だが、著者なりの分析・見解を述べるには至っていない。つまり、この本は優秀な資料にはなるが、そこから先の結論は自分の知識と経験に基づいて出す必要がある、ということを認識されたい。
"イノベーション"を促進するメカニズムに関する貴重な1次資料
★★★★★
本書の一番の特徴は徹底した現場主義にある。著者は、日本でITコンサルティングに従事した後ヘルシンキ経済大学のインターナショナルMBAプログラムに入り、現地でのネットワークを積極的に活用して、ハイテク立国を支える4つの公的支援機関と世界市場で戦うインターナショナル・ベンチャー企業12社のインタビューを行っている。著者の行動力には脱帽するばかりであるが、インタビューを通じて最先端の現場で日々苦闘する担当者の生の声を聞く事で、複雑な事象が絡み合って生成されてきた世界1位の競争力を誇る“ザ・フィンランド・システム”を重層的に理解する事ができると思う。
そのため、本書は“イノベーション”を促進するメカニズムに興味がある者にとっては必読の文献と言えるのではないだろうか。今後、日本にて知識集約産業を育成できるかの鍵が“ザ・フィンランド・システム”に隠されていると思われる。
小国の経済モデルは日本地方経済モデルに生かせるか?
★★★★★
人口の規模が500万人程度であるフィンランドが、
世界の中で一定の存在感を持っていることは興味深い。(北海道が560万人)
本書の中で特筆すべきは、日本では聞いたこともない企業に関するレポートだと思う。
まさにこの我々にとっての無名企業こそが、著者の言う「日本ビジネス再生の鍵」なのだろう。
どのような企業が自治域内に経済的な大きな基盤がない地域で発展を遂げるかについて、
思いをめぐらせば、都市と地方の格差が発生している理由を政府の政策と捉えがちな
我々の頭をゆっくりとかき混ぜてくれる。
ノキアだけじゃない
★★★★★
北欧のビジネスに興味があって読んだこの本。
北欧、ITとくるとノキアが直ぐに思い浮かぶけれども、この本によると北欧の小国フィンランドでは、次のノキアとなるようなベンチャー企業が沢山生まれているらしい。
その理由は、グローバルに活躍できるベンチャー企業を育む生態系があるのだとか。
最近はあまり日本から、グローバルに活躍するベンチャー企業が生まれていないという筆者の実感には同感できる。是非とも、ベンチャー企業家に読んでもらい、世界企業を作ってほしいと思う。