読み物としてのそんな戯曲の欠点を補うべく出版されたのが、チャールズ・オズボーンの手による、この「ブラック・コーヒー〔小説版〕」である。ここでは、先に述べた、役者の動きや演技の指示などのト書きが、小説としての情景描写の中に自然に溶け込み、ずっと読みやすくなっており、書き手がクリスティーではないという違和感も、全く感じるところがない。「ブラック・コーヒー」を読むのなら、この小説版の方だろう。
ちなみに、戯曲の出来としては「ブラック・コーヒー」を上回る「招かれざる客」も、チャールズ・オズボーンによって、小説化されている。
さて、物語の方だが、舞台は、物理学者クロード・エイモリーの読書室。莫大な金銭的価値のある新爆薬製造の化学式の入った封筒が盗まれているのを知ったクロードは、読書室に閉じ込めた6人の中に犯人がいると宣言し、電灯を消している一分間のうちに、封筒をテーブルの上に返しておけば、無罪放免しようと通告する。しかし、一分後に明かりがついたときには、クロードは毒殺されていた。クロードのブラック・コーヒーに毒を入れたのは、一体、誰だったのだろうか?ポアロの捜査が始まる。