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ウィチャリー家の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-1)

価格: ¥1,029
カテゴリ: 文庫
ブランド: 早川書房
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『さむけ』と並ぶ、<ロス・マク・ハードボイルド>の代表作 ★★★★☆
ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーとハードボイルド御三家と称されるロス・マクドナルドのLAの私立探偵リュウ・アーチャーを主人公にした、『さむけ』と並ぶ’61年発表の代表作。

‘わたし’ことリュウ・アーチャーは、ある富豪に呼び出されて、2ヶ月間行方不明になっている21才の娘フィービを捜してくれと依頼される。学校関係者と話したのち、鍵はくだんの富豪と険悪の仲にあり、今は離婚したフィービの母親であると感じた‘わたし’はサンフランシスコへ赴き、その母親の痕跡を追って調査を続ける。しかし思わぬ殺人事件が続けて2件起こったり、やっと見つけた母親を何者かにタイヤレバーで殴られ見失ってしまったりして、肝心のフィービ探しは霧の中である。
やがて、実に根気よく目撃者や関係者にあたって調査を進めるうちに、霧が晴れるように事件の全貌が明らかになる。

本書でマクドナルドは、リュウ・アーチャーをはじめとする登場人物の人物造形の巧みさ、人間入れ替わりのトリック、金に対する欲望の深さ、男女の愛憎、そしてなによりも、たとえ富豪といえども起こり得る“家庭の悲劇”を、おさえた筆致で語りつくしている。

本書に登場するのは普通の人々であり、人生の歯車が少しばかりねじれてしまったがために悲劇は起こるのだ。ラストの真犯人とのやりとりには息が詰まるほどの静寂さすら感じられる。唾棄すべきワルが現れたり、麻薬抗争やギャングとの撃ち合いがあったり、激しい暴力を描くばかりがハードボイルドではない、“人間を描く”ことが真のハードボイルドだ、というお手本のような作品である。
マスターピース ★★★★★
「さむけ」と並ぶ、ロス・マクドナルドの傑作。
この2作は、びっしりと埋め込まれた、「〜のような」という比喩が傑出しています。
その分、比喩が輝きを失っていく後期作品はガクンと落ちるのですが。

「さむけ」が「ミステリー」という枠を飛び越えてしまった「超傑作」だとすると、その前作である本作は、最後の「ミステリー枠内の傑作」ということになります。
逆の評価もあるようですが、僕はそう考えています。

なにより、このメイン・トリックはすごい。ディクスン・カーがこんなトリック使ったら、「こんな子供だましの手ぇ使いやがって」とか(本格物嫌いに)言われると思います。
アントニー・バウチャーは、「実現不可能」と言ってるそうです。

しかし、こういう仰天のトリックを使っているということは、ロス・マクが、リュー・アーチャーものを、ハードボイルドとしてだけではなく、もっと大きな「ミステリー」の枠の中で考えていた・・・ということだと思います。
その分構成も複雑になるので、構成自体はルーズなハメットやチャンドラーより(逆に)、「ハードボイルド派」としては下に見られるのではないでしょうか。

リュー・アーチャーものの第1作「動く標的」から読んでいくと、ひとりの小説家の、成長から衰退までをたどることができます。
「チャンドラーの真似」から始まったロス・マクも、本作と「さむけ」ではもう、まったく違う場所から「人間」をまるごと捉えようとしています。ハメットもチャンドラーも関係ない。
「娯楽」を目的として書かれた小説が、その意図を突き破って読む者を感動させ得る・・・「ウィチャリー家の女」と「さむけ」の2作は、そのことを証明しています。
ロスマク初心者はまずこれを読め ★★★★★
ロスマク文学の最高傑作は〔さむけ〕か,この〔ウィチャリー家の女〕かで,信者の間では未だに議論が絶えないのだが、その結論はさておき、まずにこの作品を読め、と。
この〔ウィチャリー家の女〕に関する極めて秀逸な評論を法月輪太郎が惚れ惚れする賛辞として捧げているのだが〔さむけ〕を最初に読んでしまったならば、最高傑作たる本作も霞んで見えるであろうからさ。

勿論ロスマクはハードボイルド御三家の一人だけれども、逆説的に言って所謂ステレオタイプのハードボイルドを終わらせた作家でもあるんですよね。後続のブロックは,自分の分身たるスカダーにそれを打開すべく託したのだが見事に失敗。エルロイは流石だ、ハードボイルドの枠を飛び越えて漸く自分の基盤を築いてみせた(さすがにキチガイ作家)。
つまり何を言いたいのか…この〔ウィチャリー家の女〕は最高の文学の一つではあるが,エンタテイメントとして,面白さでは〔さむけ〕には及ばないと,ハイ(苦笑)

この作品のエピローグはね、理屈じゃあ語れません。一人の人間としてただただ祈るばかりです。
仏教徒もキリスト者もありゃあしません。
自分は白色人種が大嫌いな旧弊ですが、それでもロス・マクドナルドを実の父以上に尊敬しています。
以上、失礼しました。
良い小説です。 ★★★★★
まず一番に挙げたいのが人物描写の素晴らしさです。
適格で簡潔明瞭な描写によって、登場人物が活き活きしています。
特に失踪した母娘が、どれほど似ていたかが会話によって明かされて行く場面は、圧巻です。
欲に負けてしまう人間の弱さ、哀しみ。
状況を改善しようとした行動が蹉跌となる絶望、無力感。
愚かで無力で、小さく哀しく、孤独で弱い人間たちのドラマです。
一流の娯楽作品であり、それ以上の物が確かにあります。
秋の夜長のハードボイル再読【リュウ・アーチャー】 ★★★★★
ロス マクドナルドの最高傑作の再読。数年ぶりでしたけど本当にしびれました。私の最も敬愛する探偵、リュウ・アーチャーが事件の起こる家庭の中に入り込み、質問を続け、事件の真相を追究していく。そこには密室殺人やトリックはなく、現実感にあふれている。現実の中でアーチャーは真相を探っていくのである。その結果、家庭の悲劇や血の怨恨が浮かび上がる。そこに事件が存在する。アーチャーはその事件を冷静な視線で追っていく。「わたし」が事件を追う過程はバーチャルな現実感を我々に与える。本作もウィチャリー家の影をアーチャーが薄皮をはがすように究明していく。その先には静かな海のような静寂が待ち受けているが、アーチャーは冷静に見つめるだけである。そこに読者である我々は男の「美学」を見るのである。