話はとにかくおもしろい。ページ数は少ないが、とても密度が濃い。波瀾万丈、スリル満点の展開。シビアなスパイ小説と、古き良き時代の冒険小説との、絶妙なブレンドが楽しめる。
そして、何と言ってもキャラクターが魅力的。アルセーヌ・ルパンを彷彿とさせる怪盗ベルヴォアールを筆頭に、男気たっぷりの親友ブルーノ、薄幸のユダヤ人娘ミッシェル、切れ者だが良心的なドイツ国防省情報部員フォン・ベック…と印象的なキャラクターが顔をそろえる。無惨な死を遂げるレジスタンス戦士エマールも、チョイ役なのだが鮮烈な印象を残す。
だが最も印象的なのは、英国情報部のブライアン・ボドリー長官。目的のためには手段を選ばない、冷酷非情きわまる人物なのだが、私情を排した徹底した非情さには、かえって感嘆させられる。