独特な雰囲気が魅力
★★★★☆
「プロメテウスの涙」から読んだので
近代的なミステリを書く作者さんかと思ったら
随分、色々な作風を書ける方なんですね…
一応ホラー作家寄りにジャンル分けされているようですが
何ともいえない独特な雰囲気があります。
体の一部を題材にした短編集。
特に子供の視点から見たその夏の美しさ、日の濃さ
残酷でいて寂しいというか…
個人的には「夏光」「Out of This World」が好きです。
人の気持ちを「匂い」として感じることができる
「風、檸檬、冬の終わり」も良かったです。
救われない現実を見事なまでに描ききった力は相当なもの
★★★★★
この作家の現実を見る目には、相当な葛藤が存在している。にもかかわらず、どこまでも真っ直ぐな視線をそらすことなく、見つめ続けるのは、かなりな苦痛と忍耐を伴う作業だろう。
私たちが、どうすることもできないから、という理由だけで目をそらしてしまうものを作者は徹底的に描ききっている。
今度は長編に期待したい。
作品によるかな・・・
★★★☆☆
受賞作である表題作、それから雑誌に載った最後の短編は面白かったです。
若い著者さんなのに、戦時中背景の小説をあそこまでリアルに書けるのは凄いと思いました。
終わり方もきれいで良かったです。
ただ書き下ろし作品については、そこまででもなかったかな、という・・・
先が読めてしまったのもあったし、
無理矢理体の一部でホラーを作ったという感じがしました。
今後の作品は面白くなっていくんじゃないかなあと思いました。
コドモがとてもいい
★★★★☆
ホラーの女王降臨、なんてオビがついていたけど、彼女をホラーというジャンルでくくるのはとても惜しい。
この短編集に収められた作品の中で、子供の目線から語られるいくつかの作品は、郡を抜いておもしろい。それは決してホラーではない。
視力や嗅覚などのとても原始的な力で世界を嗅ぎ取る力は、子供のころは誰でも持っていたはずの力だったかもしれない、忘れてしまっただけで。
そう思わせられるほどに、乾さんの描く子供たちの持つ力や視線は非常にリアルで冷徹だ。
死を見ることができる少年を描く「夏光」、相手のこころを匂いで知る少女が観た世界「風、檸檬、冬の終わり」、飛ぶ少年が登場する「Out Of This World」、どれも見事だ。
これが乾さんの実質のデビュー作だそうだが、ぜひとも今後、乾さんには、ホラーにこだわらず、子供の鋭い目線から描き出した(それは決してジュニア小説だのファンタジーだのというジャンルにくくられるものでもないだろう)ぎりぎりのカタチの現代小説を書いていただきたい。
村上龍の「イビサ」の最後を思わせるような・・・
★★★★★
現実にはあり得ない能力をもつ人々や漫画のような設定の小説は、ずるい感じがしてあまり好みではありません。
しかしながらこの本、引き込まれるように最期まで読んでしまった!
不気味なものと美しいもの、残酷な運命とこの世界への愛情とを図と地のようにして引き立たせる物語の構造、著者の鋭い五感など私の(少ない?)読書経験には新鮮でした。
何より読後感の切ない感じがいいですね。私は生命への肯定的なメッセージ、しっかり受け取りました。
次回はこの著者の「あり得る話」ぜひ読みたいです。