祝!装丁 祝!長編
★★★★★
デヴュー作「夏光」は、疎開した少年と、地元で疎まれている少年の話が衝撃的でした。
彼らをもう少し長く読みたいと思いましたが、短編集でしたから無理でしたが。
その二人のイメージで表紙を見直したら、悲しくなりました。
いくら少年でも肌の化粧は必要だと思います。自費出版並みではないかと。
本作「プロメテウスの涙」は、祝!装丁 祝!長編。
まず、表紙を見て「よかったね。乾さん」と、お祝いを述べたくなりました。
カバー裏は装丁関係者?の名前が4人も書かれていて、お金がかかっているかんじです。
そして、まるまる一冊涼子と祐美が出ています。この二人は「羊たちの沈黙」のクラリスと
アーデリア・マップに似ています。比重は前者が対等と、後者はクラリス主役という違いこそ
ありますが、いいパートナーです。PS刑務官も「羊…」のバーニーを思わせます。
表紙からつながるグロテスクな描写が、一種の売りかとも思いますが、乾さんは情の深さがいいのです。
最初の少女の清らかさが、物語のはじまりにもなり、ラストの救いにもなっています。後味の良さをどうぞ。
ウジが湧く描写がすごい
★★★☆☆
ストーリーは、チックという病気のような発作を日常的に起こしてしまう9歳の女の子と、電気椅子でも薬でも全身癌にかかっても、死ねずに安楽死も出来ない状態のアメリカの死刑囚とのある運命的なつながりの話。
場面が日本とアメリカで展開するのだが、この二つがいつか結びつくのか?とは読んでいて気づかなかった。
しかし不思議な話である。
この作者はいつもこんな作品を書いているのだろうか? この作者のファンというのは、こんな作品が好きなのだろうか?
ちなみにプロメテウスというのは、人類に「火」を教えてしまったため、神様から罰として死ねない体にされた上に木に貼り付けにされて、毎日鷲に肝臓を食べられているにもかかわらず行き続けていた土星の神様らしい。今でも生きているのか?(笑)
この死刑囚も死なないのだが、その描写がすざましい。体中を癌に侵されて、無事なのは脳みそと目玉だけ。体中からうじがわいていて、口をあけても中からうじが出てくるという状態。ただアメリカは人権運動が盛んなので、このような状態でも安楽死はさせられないらしい…。この描写を読むだけでもこの本の価値はあるような…。
こんなものではないはず
★★★☆☆
いずれ全国区レベルの作家になりそうな著者の待望の初長編……なのだが。うーん、困った。ネタは二十年前のB級ホラーのようだし、タイトルのセンスはさらに三十年逆行している(デビュー作もタイトルと装丁で損している)。正直、膨大な新刊が並ぶ書店で、これを誰が手に取る? 出版社はもうすこし、戦略を練って欲しい。
デビュー作における、戦時中の疎開先で描き出される焼けつくような夏の空気感と、少年たちが抱える焦燥感が肌身を通して、リアルに伝わってくる筆力は、おどろくほど影を潜め、冒頭から説明過多な、ごつごつしたリズムの悪い文章に気をそがれる。
幼女殺害で死刑が執行された男は、なぜか死なず、五十年以上の時を経て、醜い肉塊同然に成り果てた現在もまだ、生存している――そこに、海を隔てて、ふたりの精神科医がかかわる。
ずぼらでのろまなタイプと、理詰めでドライなタイプというヒロインを含めて、いずれのキャラクターも、類型的で顔が浮かんでこないキャラばかりで、会話になると誰がしゃべっているのかわからなくなる(視点が変わった際、うまく脳内で切り替わらないことがしばしば、あった)。陰影が深く、息づかいさえ伝わってくる『夏光』の主人公らに比べると、いちじるしい後退だ。
また男のキャラは無能か、醜悪な人間しかおらず、ミステリー的に見れば、たいしたことのない謎を、誰も解こうとしないため、自動的にヒロインにその役目が回ってくる。といっても、メールのやりとりだけで、ヒントは次々飛び込んできて、本人は自宅と仕事場の往復ばかりで場面転換はほとんどない。動きにとぼしいぶん、サスペンスに欠け、先への期待が一向に高まらない。
死刑囚が収監された部屋における描写も、紋切り型の連発で(死臭という言葉が繰り返される)『夏光』の五感を
刺激してくる喚起力はなく、場面におけるキモとなるヒロインが死刑囚にナイフを差し込むところも、B級映画的でチープな感触しか与えてこない。そのため、テーマ的には神話的なモチーフを扱った深遠なものになるはずが、上滑りしている。そもそも、コンビニの年齢認証システムで30〜50代のボタンを押されるのが気になってしょうがない(くどいほど繰り返される)涼子や、ただすっきりしないから、とりあえず片づけておくかといった風情の祐美といったヒロインふたりにとって、肝心の謎そのものが、どこか他人事のように感じられ、結果、衰えが目立ちはじめた女ふたりが友情を勝ち得るというありふれたオチに収斂し、神話的モチーフと交わることなく分離したまま終わる。
表現についても一行で済むところを三行、四行とつづけているところも目につき、文章がリズムを生み出さず、冗長だ。東野圭吾のそぎ落としたストイックな文体を見習ってもらいたいとも思った。
散々、批判ばかり描いたが、一読して感じたまっさらな感想で、それだけ失望が大きかったことを物語っている。それも作者への期待の裏返しからくるものだ。
傑作をすでに世に出してしまった作家には、もはやレベルを下げた作品は許されない。期待しています。
科学と宗教の境界をゆく−鬼才待望の初長編!!
★★★★★
『夏光』で圧倒的なデビューを果たした著者による
初の長編小説。
決して死むことのない死刑囚と
奇妙な発作を起こす少女。
一見なんら関係もないようで、
実は不思議な因縁で結ばれた両者。
かつて同級生だった二人の心理カウンセラーが
二人の間で複雑に絡み合った糸を解きほぐすサスペンス(&ちょっと百合?)風味の作品です。
国境はおろか科学と宗教、此岸と彼岸の境界をも越境する
壮大なストーリーもさることながら、
本書で大きく目を引くのは
西尾康之さんの『Drawn The Sands』を用いたカバー。
打ち上げられ死にかけている人魚のオブジェが
本書の内容と相俟って
類書にはない、独特の風味をかもし出しています。
映画の原作になりそうな感じの、
エンターテイメント性に富んだ作品なので
表紙にギョッとした方も気軽に読んでいただければなぁと思います。