まさに力作!
★★★★☆
高村薫さんの本はほとんど読んでいるが、この本だけは手をつけずにいた。必要に迫られて読み始めると、あっという間に読了。原子力研究者が書いたのではと思えるほど、豊富な知識に裏打ちされたリアリティがすごかった。人間の自由というものを痛切に感じさせる力作だった。
構想の綻び
★★★☆☆
上巻の質感溢れる濃密な物語から、下巻に期待したが、期待外れだった。全体構想に問題があるのではないか。
下巻の前半は主人公の感傷が延々と語られる。"良"との偽装交換劇の後の展開は、更にセンチメンタリズムの嵐である。本作の結末が原子力発電所襲撃に収斂する事は誰の目にも最初から明らかだが、それを決行する主人公と友人の心理が不透明で感情移入できない。"良"の死から、いきなりの原子力発電所襲撃は展開の飛躍が過ぎよう。襲撃シーンを慌てて最後に詰め込んだかのようである。発電所の設備や襲撃計画の描写は相変わらず精緻で、「黄金を抱いて翔べ」を思わせるが、それが却って読む者に空疎感を与える。コンクリートで囲まれた原子炉の蓋の解放が物質社会への風刺に繋がり、それが主人公の心の解放の象徴となる意図は理解できるが、如何せん、襲撃計画が唐突過ぎて違和感が拭い切れない。
上巻の曖昧模糊としながらも濃密なサスペンス劇と下巻の性急過ぎる襲撃計画がアンマッチで、構想の混乱を感じさせる作品。
心の解放
★★★★★
北朝鮮、CIA、KGB。
主人公島田を取り巻く人々は、国を背負って生きている。
犬一匹可愛いと思わなかった島田が心の空洞を埋め、自由へと旅立つ。
緊迫した秘密機関とのやりとりと絶望の中から見出した光とは…
一つが終焉を迎えた時、島田の心に新たな目的が確固としたものとなる。
刻一刻と迫ってくる時間との戦い。
誰を信用し、どの言葉が真実なのか。
果たして、安らぎを見出せることが出来るのだろうか。
人の悲哀と解放を描いた高村氏の傑作である。
内面の描写をもっと丁寧にすべき
★★★☆☆
(上巻のレビューの続き)
下巻を半分くらい過ぎたところで、ようやく本質的な部分に入ってくる。ここからの展開はスリリングで、手に汗握って読み続けたが…。
ここまでのことをする必然的な動機が、感じられたかと言われれば否である。また、ことの起こりは男同士の間に生じたシンパシーのようなものであるが、これがうまく描かれているかというと、やはり否である。そして、ストーリーからはずれた部分が、伏線としてうまく絡み合っているかと言えば、これも否である。
この作品を科学技術や国際政治の面から見れば、よく練られていると言えるだろう。しかし、人間の内面の描写から見ると、あまり優れた作品とは言い難い。よって☆は3つである。
個性のある登場人物達
★★★★★
主な登場人物島田浩二、江口彰彦、日野草介、高塚良の4人にはいずれも独特とした感じが発せられている。主人公は島田だが、良がいないとこの話は完結しない。4人のの人間模様が個々に描かれている。それが高村薫の見せ所である。
話の内容は江口にスパイにしたてられてしまった島田が「トロイ計画」に巻き込まれてしまう。あくまでも最終的には島田と日野の冒険物であり、そこが最大の魅力であるが、経過には不要な箇所もある。文庫化で加筆したから尚更なのだが、ストーリーには不要でも読者としてはおいしく受け取ったつもり。あくまでも日野と江口は対立しないといけないし、島田と日野は仲が良くないといけない。そして良はひたすら自分の目標を達成しなければならない。皆が入り組んだ関係にあって皆がただすることをするだけ。小説だから作れる人間ドラマはストーリーには不要だが、面白い物だと思う。
個人的には冒険小説は好きだし高村小説はこれを読んで更に好きになった。しかし一般受けするかどうかは分からない。不要な部分は不要だと切り捨てる人もいるだろうし、内容が固く下巻は重い部分もある。高村小説好きならば読めても最初から読めるものではない気もしないわけではない。そう言うわけで星5つにしたが、個人的評価と受け取って欲しい。
ジン書店mark16
★★★★☆
読了。米ソ、日本、北朝鮮などの国々の諜報機関が暗躍する中、主人公島田は自らの身と良の命を救うべく取引を持ちかける。しかし、その頼みの綱も切れ、最後に島田が選択したのは…。登場人物それぞれが自分の役割をしっかりやり遂げていて重厚な作品。登場人物の一人である江口の日本に対する考え方は重きを置くべきものですね。ただ私的には、主人公にあまり感情移入できなかったので、“原発”について考えることが多かったです。
まつた
★★★★☆
阿倍野から広がる。新世界、あいりん、天王寺公園、十三、東三国と、次々に大阪の街が登場する。十三の中華料理屋は王将か。皮が固めの餃子の食感がよみがえる。他にも土佐堀のビル、阿倍野筋ぞいの木村商店も、記憶にありそうな建物が出てくる。
文芸専門書店
★★★★★
〈トロイ計画〉の鍵を握るマイクロフィルムを島田は入手した。CIA・KGB・北朝鮮情報部・日本公安警察…4国の諜報機関の駆け引きが苛烈さを増す中、彼は追い詰められてゆく。最後の頼みの取引も失敗した今、彼と日野は、プランなき「原発襲撃」へ動きだした―。完璧な防御網を突破して、現代の神殿の奥深く、静かに燃えるプロメテウスの火を、彼らは解き放つことができるか。
オチラボ堂
★★★★☆
〈トロイ計画〉の鍵を握るマイクロフィルムを島田は入手した。CIA・KGB・北朝鮮情報部・日本公安警察…4国の諜報機関の駆け引きが苛烈さを増す中、彼は追い詰められてゆく。最後の頼みの取引も失敗した今、彼と日野は、プランなき「原発襲撃」へ動きだした―。完璧な防御網を突破して、現代の神殿の奥深く、静かに燃えるプロメテウスの火を、彼らは解き放つことができるか。これ読んだ後、原発のニュースを見るたびに胸が痛む。
巨石支部
★★★★★
最後の音海でのシーンが緊張感とスピード感があふれており、ハリウッド映画のようです!いや~面白かった!
地味ながらも高村薫の真骨頂!
★★★★☆
高村先生の作品の中では、どちらかというと「地味」な印象のある作品ですが、「核」を巡る人々の思いと葛藤が如実に描かれていて、心抉られます。スケールも広く、国際社会を背景に考えさせられる作品。
こだわりブックセレクション
★★★★★
あらすじ。
原発技術者だったかつて、極秘情報をソヴィエトに流していた島田。謀略の日々に訣別し、全てを捨て平穏な日々を選んだ彼は、己をスパイに仕立てた男と再会したときから、幼馴染みの日野と共に、謎に包まれた原発襲撃プラン【トロイ計画】を巡る、苛烈な諜報戦に巻き込まれることになった……。