結末はなんとも苦しいものでした。
いっそあとがきにある文章を結末にしてほしかった。

「人は思い出のみに嫉妬する」愛麗に嫉妬する栞 栞に嫉妬する愛麗、安東に嫉妬する中西。中西に嫉妬する安東。循環していく嫉妬は、自分を傷つけ、人を傷つける。現実世界では色々なことに折り合いをつけることが大切。それを教えてくれる。「愛しすぎることは愛していないことと同じ」など著者が書くひとつひとつの言葉がしみる一作。

思い出から逃れられない男と
相手の思い出を振り払いたい男。
きっと全ての男がそうであるように
自分もまた、好きになった相手の思い出に嫉妬し
しかしながら自分の思い出からは逃れられない。

僕には戸田さんの気持ちも安東君の気持ちも
痛いほどによくわかる。その両者の間で
揺れなければならない栞の心も理解できる。
登場人物は皆、心が繊細である。
だからこそ必要以上に誰かを傷つけてしまう。

誰かの気持ちには感情移入できる。
誰の気持ちになったとしても胸が締め付けれらる。
辻作品の中では文章に稚拙な印象を受けるが
登場人物の心の動きが鮮やかに描写されており
惹きつけられて読み進むことができる。

大きな恋愛を経た二十代後半以降の方に
真に迫るものがあるのではないだろうか。

愛する人の過去や、その人がかつて愛した人の幻影に嫉妬するがあまり自分の人格も壊れてしまう。愛しすぎるからこその苦しみとせつなさ。
私も相当に嫉妬深いから、この主人公の不安な気持ち、疑い深い気持ちは心に染みました。
ほどほどにって、難しい。
相手を、自分を、苦しめてしまうほどこんなにも愛し愛される恋を経験してみたいと思った。

心の動きを丹念にしかし効果的にフォーカスをして描いている。作者の文体とリズムに慣れそれを心地よいと感ずる読者は、存分に楽しみめる。