豊富な実例と視野の広さ、日本では気づかぬ多様な文明
★★★★☆
人間は水なくして数日も生きられない。人間の生命を支えている動植物もその事情は同様であり、人間が社会を作り、文明を作る際にその内容は常に水に制約された。古来見ずと文明の関係を論じた本は多いが、その中で群を抜いて豊富な実例と視野の広さにおいて本書は目立っている。日本はモンスーン気候のはずれにあり、世界でも例外的に水の多い気候に適応して米を水田で作ってきたが、他方には中東や中国内陸部のような乾燥地帯でも固有の文明が発達した。私は仕事柄この種の問題を扱った本を読む機会が多いが、本書では久しぶりに次のページには何が書かれているかと楽しみながら読み進んだ。歴史の中での水の使い方、使われ型がおそらく21世紀に入って激変し、その争奪を巡って戦争が多発するような貴重な資源になるだろうと説く人は多いが、この本ではその危機感が十分な説得力を持って迫ってくる。この問題は21世紀の日本の進路を左右するだけに、日本の政策目標、特に中国との外交について参考になる提言がほしかったところである。