冨田勲のシンセ世界と並び称してもいいくらいの世界的な傑作
★★★★★
恐らく、本作の発表直後だったと思うが、3曲目の「デジリュージョン」がNHK−FM「クロスオーバー・イレブン」でオン・エアされた。(メタル・カセットを使用したその時のエア・チェック・テープはまだ持っている)
まだロックを聴き始めて間もない子供だったが、凄い衝撃を受けたのだった。
しかし、まだ情報の少ない時代だったので、この「深町純」というアーティストのことで知るところは少なく、レコードも田舎では満足に捜すことに出来ず、結局、折に触れカセット・テープを繰り返し聞く、というに留まる日々が続いた。
CDの時代になって、時々思い出したようにCD化されていないが探してみたが、そうこうする内に三十年近い月日が流れ、今回の再発に巡りあった。
「初CD化」と明記されていないので、おそらく以前にもCD化されたのだろうが、今回は最新マスタリングで、音質的にも満足している。ただ、わたしはSHM-CD信者ではないが、こういったオーディオ的に斬新なアルバムこそ、ハイ・マテリアルな素材で復刻して欲しかった、とも思うのだが。
肝心の内容だが、やはり、エア・チェック・テープではなく、CDでダイレクトに聞く「デジリュージョン」は感動もひとしお。
他の曲も−−オーディオ面も含めて−−それなりに楽しめた。
80年代のシンセ・アルバムは、今聞くと時代がかったところが多くかえって陳腐な作品も多いが、本作は時空を超えて生き延びる生命力を持っていると思う。
ただ...ジャケットがこういったデザインだったとは...ちょっとイメージと違ってガッカリ。
鬼才・深町純がひとりで作り上げた壮大な音宇宙(LPコピーより)
★★★★☆
1980年当時、アナログシンセサイザーというものは多数のツマミやスイッチを自由に操作して独自の音を生み出すまでに相当の時間を消費するシロモノであり、初期は単音しか出ない「モノフォニック」タイプだった。
クラシック音楽を独自で解釈した冨田勲、「炎のランナー」のヴァンゲリス、「時計仕掛けのオレンジ」のウォルター・カーロス、ジャン・ミッシェル・ジャール、そして「シルクロード」の喜多郎。 多くのリスナーはその音に無限のイメージを持ったものである。
自分が買ったローランドの「Juno」シリーズ以降は音がプリセット(記憶)されたものが中心となって音を出すことが格段に楽になり、ヤマハのデジタル・シンセ「DX7」以降は自分が弾けない(買えない)楽器の“代替手段”的存在になってしまった感がある。
それを考えると、深町氏などシンセサイザーの先人の労力にはほんとうに頭が下がるのだ。
アルバムタイトル曲「クオーク」もまたスケールの大きい宇宙を連想させるもので、一部はテレビのニュース番組のオープニングでも聞いたような記憶がある。
このアルバムを手に取るきっかけになった3曲目の「デジリュージョン」はNHK-FM「クロスオーバー・イレブン」でオンエアされ、強い関心を持った。 ピアノとシンセサイザーで作られた約12分の世界はメランコリックで深い。
4トラック目は「Insight(洞察力、の意)」というタイトル通り「音楽」の概念から外れたもので、宇宙の中に泉や生命体があることを想像しながら耳を傾けてみて欲しい(よって、ながら聞きには向かない)。
卵を抱えたカエルのジャケット。デジタルを象徴する2進法の曲順表記。氏自身の音楽哲学をつづったライナーノーツ。
フュージョンから彼を知った方にとってはややとっつきにくい作品かもしれないが、すべてが斬新であり、深町氏のアナザーサイドを垣間見る絶好の機会になるだろう。
ちなみに、この年の深町氏は他にもATG映画「海潮音」(荻野目慶子主演)やスペシャルドラマ「小児病棟」(桃井かおり主演)など重厚な作品の音楽を、このスタイルで手掛けた。