観念的な冒険はお好き?
★★★☆☆
はっきりと好き嫌いがでる実験的な作品であると同時に、
好きなのか嫌いなのか、というラインで判断がつけられない作品ですね。
私個人は、なかなか面白く読みました。(すき嫌いではない、の部類です)
クレジオ本人は、「大洪水」が難しい内容になったために、先に「調書」を発表したと語っています。
構成そのものは美しくできていますが、観念的な冒険を許容できないと苦痛に感じられるかもしれません。
以下、雰囲気について
シュルレアリスムやダダに通ずるセンスが感じられます。
とりわけ、序説においての目眩を誘う出来事は、秩序がないようで
どこかにつなぎ止められてでもいるかのように、ふとした瞬間に現実に連れ戻されるよう。
記号的な表現(アルファベットや線などの純粋な記号)によって
風景を示すグラフィックの大胆さも、目を見張るものがあります。
変わって第一章からは、フランソワ・ベッソンの生活が刻々と描かれ
文体もそれなりに具体性をおびてきます。他者とのやりとりに作家の関心が移動します。
テープの挿入等、技巧的にも上手いところがありつつ
最終章にむかってセカイが収束していくって感じ。
このような観念性と具体性の緩急から導き出される、思想的冒険は、
確かにノーベル賞作家としての地盤になったといえるでしょう。
最近のクレジオの作風とは趣が違うもので、
コンセプチャルな思想が詰め込まれた一にして複数の作品です。
クレジオファンの方も、そうでない方も、一度手に取ってみられる事をおすすめします。
あれ、これじゃネットレヴューとしてダメかしら!?