あっちとこっちの世界
★★★★★
向うの世界に出るためにこの細い暗い通路のいくつの扉を開けたことだろう。やっと最後の扉を開けるとパッと明るい平和な世界が広がっていた。しかしそこは神秘と沈黙の世界。人間の声はほとんど聞こえない。動物も植物も人間もみな同じ息をしている。みなが仲間だ。逆に向うからこっちへやってきて最後の最後の扉を開けると、そこは魑魅魍魎の世界。動物も生物もなぎ倒されて大威張りしているのは人間だけ。またその人間が、オレがオレがと声高にうるさく美を競い合っている。何が美だ。もう爛れて汚れ切った退廃物ではないか。今に生きるインディオの世界を垣間見て少しは反省してはどうだ、現代の諸君。
美を好む私は本書に一喝された。