ハーバード大学教育学大学院教授で認知・教育学の第一人者であるハワード・ガードナーが、多重知能(=MI理論)について述べた書。この分野に関する教授の著書が邦訳されるのは、これが初めてである。
これまで知能というものは、たったひとつの指標「IQ」によって示されるものと信じられてきた。しかし、人はそれぞれ異なった能力を持っている。勉強ができる人もいれば、運動の得意な人、音感の良い人もいる。
著者は人間には7つの別個の知能が存在すると提唱している。それは、言語的知能(言葉を扱う)、論理数学的知能(数、記号、図形を扱う)、音楽的知能(リズムと音のパターンを扱う)、身体運動的知能(身体と運動を扱う)、空間的知能(イメージや映像を扱う)、対人的知能(他人とのコミュニケーションを扱う)、内省的知能(自己とその精神的リアリティーという内的側面を扱う)である。知能は単一ではなく、複数あるというのだ。
さらに著者は、この考え方を教育実践の場に応用するためのヒントを示している。読み、書き、計算などの学習というのは著者の目標である「理解のための教育」を達成するための手段でしかない。従来の精神測定学IQ(知能検査によって具体化される数値)はこの先もなくなることはないだろうが、MI理論に基づいて、さまざまな知能を認め、お互いに補い合うことが、教育学の発展にもつながると述べている。数値だけでは測れない人間の可能性を見いだすための、価値ある1冊である。(冴木なお)
多重知能理論の発展書
★★★★☆
20年ほど前にガードナー博士によって唱えられた多重知能の考え方は、米国を初めとする英語圏の教育会に大きな影響を与え、様々な活用の取り組みや発展した議論が行われています。
本書は、もともとの多重知能の考え方そのものの説明よりも、発表後に行われた様々な取り組みの総括的な意味合いにより重きを置いています。もちろん、知能の定義づけからはじまり、多重知能の理論の出現前の知能に対する考え方、多重知能の考え方の基本なども前半部で触れられてはいますが、追加できる知能への考察や多重知能をめぐるQ&A、学校における多重知能といった内容に多く触れられています。
従いまして、初めて多重知能の理論を読んでみて、「私はこの知能が優れているかも、劣っているかも」という自己投影よりも、社会学的な考察により大きく寄与する本と思います。
ガードナー氏の考えに触れることができる貴重な一冊
★★★★★
今から20年ほど前、ハーバード大学のハワードガードナー氏が唱えた「マルチプル・インテリジェンス(MI)」という理論。この理論は世界ではすでに多数に認知されている理論である。唱えている内容もすばらしく、個を大切にする今の日本の時代の教育にもマッチしている。しかし、その割には日本での認知度は低い。それは、ガードナー氏の翻訳本が少ないことにも一因がある。この本はガードナー氏が提唱するMI理論について詳しく書かれたものである。この本を読むことで、外国に認知されている教育理論に少しでも触れることができる。今の教育に物足りなさを感じている人は是非読んでほしい一冊である。
貴重な「多重知能理論」の訳書
★★★★★
ハワード・ガードナーの「多重知能理論」を紹介した2001年の初の邦訳書。『Frames of mind』(1983年)で提唱された「MI理論」はその後約20年のあいだにアメリカはもとより世界中に広まったが、本書には、その間のさまざまな質問、誤解、教育現場で実践される場合の混乱への回答などが含まれている。また、最初に提唱された7つの知能に加える候補としての「博物的知能」、「霊的知能」、「実存的知能」を提案し、検討を加えている点も重要である。関連する問題として、価値判断を含まない「知能」と、価値判断を含む「道徳性」や「感情」など、ゴールマンの「EI」との比較で錯綜した問題に答えている。ガードナーの研究範囲は、脳損傷の研究、美術教育の認知心理学的研究、リーダーの研究、創造性の研究など多岐にわたるが、それらの仕事の総まとめとしての「MI理論」は、人間の知的な活動の全体を人類の全歴史を通して通覧し、さらに未来の展望までを含む壮大なものである。再三行われるホロコーストへの言及を通して、人間の能力の暗い側面への目配りも欠かさない。さらにクローン技術など、自然科学が人類にもたらした深刻な問題を取り上げ、芸術や人文科学の重要さも主張する。能力間の不当な順位付けを廃し、知能の評価への徹底した慎重な態度など、ガードナーの透徹したヒューマニズムが感じられる。
人がどれほど多様かを教えてくれる
★★★★★
認知心理学者である著者が、人がどれほど多様であるかを教えてくれる有益な書籍です。
MIには以下の8つの知能が定義されています。
・言語的知能
・論理数学的能力(言語的知能と併せてIQ)
・音楽的知能
・身体運動的知能
・空間的知能
・対人的知能(SQ)
・内省的知能(EQ)
・博物的知能
MIの8つの能力は、様々な研究領域の知見を駆使し、以下の厳しい選定基準を設定したうえで厳選しています(最近は9つめの能力が選定基準をクリアしはじけているようです)。
・脳科学的根拠(特定の知能を司る領域が脳内で特定できること)
・天才の存在(特定の知能を持つ天才が実際に存在すること)
・独特の発達過程(特定の知能には特有の発達過程があること)
・進化の必然性(進化理論・進化心理学で知能として取り扱われていること)
・測定可能性(何らかの方法で知能の高さをチェックできること)
・発揮のバラツキ(人によって特定の知能の高低が観察できること)
・機能の独自性(まとまった機能として活用されていること)
・文化的なシンボル(文化において特定のものとして取り扱われていること)
これだけあっても、知能の特定として完璧なのかどうかは議論の余地があるようですが、知能は1つであるというIQの前提を、木端微塵にするには十分だといえます。
また脳科学の最近の知見からは、IQ理論のように、知能を階層構造ありきで捉えること自体が間違っているという指摘もあります(階層構造ありきの発想は工業社会で形成された文化・思想の残滓らしいです)。
また本書の内容はアメリカの国家プロジェクトとしての、人の個性を見極め引き出す為の教育のあり方についての研究の結果であり、既にアメリカの学校でも活用実績のあるものです。最近ではヨーロッパでも教育現場で活用されているとのことです。
更にMIの優れたところは、今後の人間の研究の発展によって、検証が可能であること、場合によっては新たな知能が発見される可能性があること、です。
脳科学との統合はまだ果たされていません(著者も認めています)が、そのうち検証されるでしょう。
教育に携わる人(相手が子供でも大人でも)にとっての必読書です。
子供の個性を生かしたい先生にお勧めです
★★★★☆
オーストラリアで日本語教師をしている私はガードーナー博士のこの考えを取り入れて教えています。人にはそれぞれの知能(インテリジェンス)が備わっていてそれらは同じように評価されるというものです。今までの言語、論理、音楽、美術、体育、対外、内省といった知能に加えて、自然、精神、存在という新しい知能の存在についても触れています。かなり分厚い本なので、読みこなすには時間がかかりますが、日本の教育現場で子供の個性をどう伸ばすかに悩んで折られる先生たちにぜひ読んでいただきたい一冊です。How smart is this students (どれだけこの生徒は頭がいいか)ではなく、How is this student smart (この生徒はどのように頭がよいか)自分の知能に自信をもった生徒は他のことにも自信を持つようになります。その他のシリーズも含めて翻訳本が出れば必ずベストセラーになる本だと思います。