物語
★★★★☆
登場人物達の出会いが、都合良すぎる点を除けば、本作(上巻)は物語に乗っていくことが出来る。そのことだけでも名作なのだと思う。本作品に出てくる「雪迎え」は山形県南陽市にある白竜湖で有名な事象であり、著者の錦三郎氏も南陽市で学校の先生をされていた方だと記憶しています。そんなことも物語に入り込みやすい一因です。
これから下巻です。
いい作品をプレゼントしていただいてありがとうございました。
約束の冬
★★★★★
待ち時間にちょっと読もうと購入しましたが、あまりの面白さに宮本輝の世界に引き込まれ、2日間で上下巻読んでしまいました。彼の作品を読むのは久しぶりでしたが、改めてその力量に感服させられました。全編を通して、登場人物が「まっとうな生きている」ことに安堵感を覚え、彼が憂えている「日本の国の民度の低下」に共感し、自分も日々誠実に生きなければならないと強く思いました。小説をもっと読もうと思わされた極上の作品です。
雪迎え
★★★★☆
人間関係が作為的なほど偶然が重なり合いすぎている以外は、面白かったです。
「オレンジの壺」「ここに地終わり海始まる」などと似た感じを受けました。
自分の吐き出したか細い糸と上昇気流と風だけを頼りに飛ぼうとする蜘蛛の子の健気な営み(東北地方では「雪迎え」と言うらしい)が要所で語られており、小ネタに使えそう・・・
十年後の自分
★★★★☆
宮本輝は男女間の恋愛を書くけれど、書くのではなく描いている。恋愛はその人の一部分で、恋愛そのものに主眼をおいていない。まず人間ありきのスタンスが良い。
人は何かのきっかけで自分の来たした人生を振り返り、満足と後悔を感じ、これからの自分の対して「かくありたい」と望むものだ。”人生の転機”をこの本は語っているように感じた。人生の転機はいつ訪れるかわからない。20代には20代のその人なりの、60代には60代のその人なりの転機がある。作中に出てくる”飛行蜘蛛”はそんな人間の心の心細さと潔さを表している。
「約束の冬」では徒然草の第百五十段が引用されている。これが人生の転機に何かを示唆しているような気がした。
能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひ得て、さし出でたらんこそ、いと心にくからめ」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得ることなし。
未だ堅固かたほなるより、上手の中に交りて、毀り笑はるるにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む人、天性、その骨なけれども、道になづまず、濫りにせずして、年を送れば、堪能の嗜まざるよりは、終に上手の位に至り、徳たけ、人に許されて、双なき名を得る事なり。
天下のものの上手といへども、始めは、不堪の聞えもあり、無下の瑕瑾もありき。されども、その人、道の掟正しく、これを重くして、放埒せざれば、世の博士にて、万人の師となる事、諸道変るべからず。
つまり、
これから何か芸事を習おうとする人がよく言うのに
「うまくできないうちは人に見られるとみっともないので、人に知られないようにひそかに練習し、うまくできるようになってから人前で披露するのが良いと思う。」
そんなことを言う人は、ひとつも芸を習得できることはできない。
宮本作品の面白さのひとつに、文中に差し込まれるこうした引用文がある。十年後の自分に思いをはせながら、主人公の気持ちになって読んでみた。
下巻の後半が・・・
★★★☆☆
ちょっと急ぎ足で、未解決な部分が多いような・・
新聞小説って配分難しいからかなぁ。
でも読んで良かったです。夢中になりました。